「あら、マイア。なに、そのみずぼらしい服は?
 ハベリア伯爵家の令嬢がそんな服装なんて恥ずかしいわ」
「……申し訳ございません」

 本邸に向かったマイアを真っ先に出迎えたのは、義母の罵倒だった。
 ソファでくつろぐ義母シャニアの隣には、妹であり義母の実子であるコルディアの姿もあった。
 父は母子の向かい側のソファに座り、眉をひそめてマイアの姿を見ている。

「あらお母様、今日ばかりはお姉様を咎めるのはやめてあげましょう?」

 マイアに厳しい視線を向ける母親に対して、コルディアが哀れむように言う。

「だって今日はお姉様にとって、おめでたい日だもの。ねえ、お父様?」
「うむ、そうだな」

 おめでたい日……その言葉に違和感を覚えたマイア。
 何かを祝われたことなど、母が亡くなって以来なかった。

 むしろ誕生日ごとに嫌味を言われてきたほどだ。
 いつまで生きているの、いい歳して汚らわしい……などと。

「そもそも、お姉様がそんな汚らしい身なりで屋敷に来なければよかったのですけどね?」

「…………」

 心中でため息をつくマイア。
 こうして妹や母親から誹りを受けることは慣れている。
 言葉での暴力だけならまだマシな方だ。

 これ以上、無駄な話は続けたくない。
 マイアは父のエドニアに尋ねた。

「えっと、お父様。ご用件は何でしょうか?」

「ああ、それなのだがな──マイア。お前を嫁にもらいたいという話がある」