頷いたマイアを見て、ジョシュアは一枚の紙を取り出す。

「契約書だ。内容をよく見て、君がよければ署名を」

 マイアはじっくりと契約書を読み始める。
 特に知らない情報は書かれていない。

 これは契約結婚であること、公の場で妻として振る舞うこと、互いには極力干渉しないこと、公爵家の品位を落とさぬこと、などなど……事前に聞いていた情報がほとんどだ。

「式の準備が整うまではしばらくかかる。
 それまでは婚約者として過ごしてもらうことになるが」

 マイアの緊張が高まる。
 ずっと鼓動が高鳴っていて顔が熱い。

 緊張のせいか、筆が上手く取れない。
 ふと。震える彼女の手に温かいものが触れた。

「書いてくれるか?」

 震える彼女の手に重なった、ジョシュアの白い手。
 美しくも立派な男性的な手だ。

 次第にマイアの緊張は収まっていく。
 彼女はやがてインクを紙に垂らし、さらさらとペンを走らせた。

「契約結婚、謹んでお受けします」