夕食時、セーレに起こされたマイア。
 彼女は身だしなみを整えてダイニングルームへ向かう。

 扉が開いて最初に視界に飛び込んできたのは、上座に座るジョシュアだった。
 ジョシュアはマイアを見て口を開く。

「俺の隣へ。……しかしマイア嬢、ずいぶんと綺麗になったな」
「へ!? い、いえ……その、ありがとう、ございます……?」

 まともに褒められたことのないマイア。
 直球な誉め言葉に思わず戸惑ってしまう。
 真っ赤になる顔を隠しつつ、彼女はそれとなくジョシュアの隣に座る。

「先に言っておくが、毎日夕食を共にできるわけではない。多忙な時は王城で寝泊まりしているからな。しばらくは屋敷で過ごせると思うが……」
「いえ、お構いなく。ジョシュア様がお仕事に集中するための契約結婚でしょう? それに、こうしてわずかな時でも一緒に過ごしてくださって嬉しいです」
「……寂しい思いをさせてしまうな」

 ジョシュアは険しい顔をして言った。
 契約結婚なのに相手を気遣うとは、やはり彼は優しい人だ。

 ふと入り口から、香ばしい匂いが漂ってくる。
 扉が開くと、サービスワゴンに乗った料理が次々と運ばれてきた。

 前菜が次々とテーブルに並べられていく。
 マッシュルームのマリネ、トマトとチーズのカプレーゼ、リンゴのカナッペなどなど。どの料理も宝石を思わせる輝きを放つ。

(これ、私が食べてもいいの……?)

 豪華な食事を前に、マイアは硬直した。
 実家ではパンくずや野菜の芯を食べて育ってきた彼女。
 これが普通の貴族の食事だと言われても、いまいち実感が湧かない。