「ふぃ~」

 しばし湯船に浸かった後、マイアは出口に向かう。
 本当に気持ちよかった。思わず眠くなってしまうほどに。

 ここまで身体が休まったのはいつ以来だろう。
 そんなことを考えていると……リラックスしていたからだろうか。

「きゃっ!?」

 つるりと足元が滑り横転してしまう。
 何とか受け身の姿勢を取ったものの、ごつんと肩を床にぶつけてしまう。

 ズキズキと痛む右肩。
 マイアは反射的に左手を肩にかざす。

「……い、いたいのいたいのとんでけー」

 そう、おまじないだ。
 おまじないをかけると同時、痛みはすぐに引いていく。
 母から教わったおまじないは本当に万能で、大抵の痛みは払ってくれる。

 まさか公爵家に嫁いでもおまじないを使う羽目になるとは。

「本当に……気をつけないとね」

 こんなドジな真似をジョシュアの前で晒せば、嫌われてしまうかもしれない。
 お前みたいなドジは公爵家の夫人に相応しくないと。