「マイア様。夕食前にお風呂に入るよう、旦那様が仰っていました。参りましょう」
「おふろ……」

 風呂。
 それもまた、マイアにとって馴染みのない代物だった。

 実家では風呂など入ることはなく、冷たい水のタオルで身体を拭くだけ。
 それどころか家の風呂を焚く手伝いをさせられていた始末だ。

「マイア様は……すごく磨いたら光りそうですものね」
「磨いたら光る? あ、お掃除をするの?
 私も手伝うわ、掃除は得意だし」
「どうしてそうなるんですか……」

 令嬢なのに掃除が得意とはいったい。
 今セーレが言ったのは、マイアの容姿について。
 今は髪もボサボサで目の下のクマも酷いが、しっかりと容姿を整えればかなりの美人になる。

 ジョシュアもそれを見抜いていたのだろう。
 少なくとも容姿に関して、マイアはジョシュアの妻に相応しい。
 セーレはそう思うのだった。