「ところでマイア様。お荷物はどちらに?」
「荷物? これです……じゃない。これよ」

 小さめの鞄をマイアは差し出す。
 茶色で古ぼけた鞄だけ。
 取っ手は今にも千切れてしまいそうで、見るに堪えない。

「はい? これだけですか? これが鞄ですか?」
「えっと……これしかなくて。すみません」

 ばつの悪そうに視線を逸らすマイア。
 ボロボロの鞄を受け取ったセーレは違和感を覚えた。
 あまりに中身が軽いのだ。

「中身はお母様からもらったヘアピンとか、けがした時のための絆創膏とか……」
「な、なるほど。お着替えなどはこちらで用意いたします」
「まあ、お洋服を買ってくださるなんて……ジョシュア様は寛大なのね」
「いえ、当然のことだと思いますが」

 どうにもマイアの感性はずれている気がする。
 ここに至ってセーレは強烈な違和感を覚えはじめた。
 とても伯爵令嬢とは思えない。
 ましてや夜な夜な豪遊している令嬢などと。

 思えば主人のジョシュアも、社交界の付き合いが面倒でわざと悪い噂を流している。もしかしたらマイアも同じなのでは?

 しかし、「あなたは悪評高いですが、その噂は本当ですか」などと質問できるわけがない。
 とりあえずマイアがどんな人物かは、使用人として仕えることで見極めようとセーレは思うのだった。