マイアは促されるままにジョシュアの向かいに座る。
 正面を見ると、じっとジョシュアがこちらを見ていた。
 恥ずかしくて目を合わせられない。

「紅茶を用意しよう。熱い飲み物は苦手か?」
「え、いえ……どっちでも大丈夫です!」
「では、熱い物と冷たい物。どちらかと言えば?」
「いえあの……紅茶なんてほとんど飲んだことないですし……」
「飲んだことない?」

 ──マズい。口を滑らせてしまった。
 紅茶なんて実家では飲ませてもらえなかったのだ。

 マイアは口に手を当てて混乱する。
 とりあえず言い繕わなくては。

「そういう意味じゃなくてですね!? あの、あれです!
 最近飲んでないという意味です!」
「ふむ……そうか。では、ほどよい温度の茶を用意させよう」

 香りのよい茶が目の前のティーカップに注がれる。
 注いでくれたのは、先程マイアを案内したアランという使用人。
 紅茶など久しく飲んでいない代物だ。

 使用人が下がったのを見てジョシュアが口を開く。

「さて、まずは今回の結婚について。これは契約結婚だ」

 契約結婚。
 つまり形だけの婚姻関係。

 ジョシュアは説明を続ける。

「周囲が結婚しろとうるさくてな。俺は仕事に集中したいので結婚などする気はないのだが……地位を目当てにした女との結婚は御免だ。
 というわけで、マイア嬢との契約結婚を望んだわけだ。社交界にも出ない君であれば、夜会で遊ぶことしか考えていない女よりはマシだろうからな」

 ジョシュアがマイアを嫁に貰おうとした理由はわかった。
 噂に聞いていた通り、仕事人間なのだろうか。

 暴力漢だと聞いていたが、物腰はずいぶんと柔らかい。
 手を出したりはしてこなさそうだが。

「ジョシュア様も大変ですのね……」
「まあな。いくら俺が公爵だといっても、これは契約結婚だ。
 本当に婚約を交わしても構わないのか、よく考えるといい。君の役目は、公の場で俺の妻として振る舞うことだけ。数日考えてからでも返事は遅くな……」
「なるほど、承知いたしましたわ。謹んでお受けいたします」