鼓膜を打った心地いい声。

 煌めく金色の髪、宝石のように美しい碧色の瞳。
 美しいながらも、どこか冷徹な雰囲気を感じさせる顔立ち。

 軍服の上からも窺える引き締まった筋肉。すらりと長い手足。
 彼──ジョシュアは高い背丈からマイアを見下ろしている。

「手が離せない用件があって遅れてしまった。申し訳ない」

 彼はきっちりと頭を下げた。
 これが超堅物、大の女嫌い、暴力漢のジョシュア公爵。
 あまりに美しい容貌に、マイアは思わず立ち尽くしてしまった。

 碌に社交界に出たことのない彼女にとって、ジョシュアはあまりに美しすぎた。
 まるで物語に出てくる理想の王子様のようだ。

「……俺の顔に何かついているか?」
「ハッ! い、いいいいえ何でもありません!」

 怪訝に眉をひそめるジョシュア。
 マイアは意識を取り戻し、礼をしなくてはと慌てて足を動かす。

「マイア・ハベリアと申します」

 落ち着き払ったフリをして、マイアはお辞儀(カーテシー)する。
 彼女の優雅な礼を見てジョシュアは首を傾げた。

 曰く、まったく礼節を知らぬ悪人令嬢だそうだが。
 今のところ、マイアからはかなり礼儀正しい印象を受ける。
 それに見た目も聞いていたものとはずいぶん違う。
 汚れてはいるが、素の見た目はかなり美人そうだ。

「まあ、座ってくれ」
「は、はい」