「少々お待ちください」

 応接間に通され、マイアはソファに座る。
 どうやらジョシュア公は多忙を極めているらしく、今も執務室で働いているとのこと。アランがジョシュアを呼びに行くと、応接室には静寂が訪れた。


 マイアはこれから面会することになる夫について考える。
 彼女と同様に、ジョシュアの評判はすこぶる悪い。

 仕事面に関しては非常に優秀な手腕を持っており、国王陛下の右腕とも称される。しかし、人格面は悪い噂ばかり。

 大の女嫌いで、すぐに暴力を振るい、どんな美女でも近づけないと。
 しかも冗談が通じない超堅物で、仕事人間。

(でも実家の待遇に比べたらマシよね……)

 実家でも暴力を振るわれて虐められていたのだから。
 何がどう転んでも伯爵家の待遇よりはマシになる。
 マイアには確信があった。

 とりあえず一日一食は欲しい。
 おまじないで治せる程度の怪我や空腹であれば構わない。

(あ、そうそう。支度金の話もしないと……)

 父からは到着してすぐに支度金の話を通すようにと、言いつけられていた。
 この豪邸を見る限り、支度金など端金だろう。
 憂いはまだ完全に消えたわけではない。
 とりあえず、婚約破棄されないように振る舞わなくては。

 そんなこんなで思考に耽っていると、部屋の外から足音が聞こえた。
 そして応接間のドアノブが回り、ガチャという音と共に扉が開く。

 マイアはすぐに立ち上がった。
 挨拶を交わそうと扉の方を見て……固まってしまう。

「ジョシュア・エリオットだ。お待たせしてすまない、マイア嬢」

 見たこともないような美青年が立っていた。