「うん、すっかり慣れちゃった。アミルのおかげだよ。感謝してもしきれない」

日本では指名手配をされている犯罪者。でもここじゃただのホテル従業員。刑務所に入ることなく異国でこうして遊んで楽しく暮らせるなんて、思ってもみなかったな。

アミルにホテルでの仕事を話していた時だった。前方から帽子を被り、分厚い制服に身を包んだ警察官が歩いてくる。その腰には拳銃があり、それを目にしただけで自然と体が震えた。

(日本で詐欺師をしていたことがバレた?)

ドバイに来て平穏な暮らしをしているというのに、体は身構えてしまう。足が地面にくっついてしまったかのように動かなくなり、手が小刻みに震える。顔もきっと真っ青になっているだろう。

警察官と目が合う。訝しげな顔をしてこちらに近付いてくる。今の私はちゃんと嘘がつけるだろうか。ただの一般市民になれるのだろうか。

「美砂」

アミルが名前を呼んだ刹那、視界いっぱいに彼の整った顔が映る。何度も唇が重ねられ、私は驚きつつも、心臓の鼓動が早まっていくのを感じた。