「先輩って言っても、そう呼ばれるほどできた先輩じゃねえけどな」
「いいえ。先輩は……三年生さん、ですか」
「すげえ嫌だけど、当たり。今年受験とか信じたくねえ」


 高校生にもなると学年の区別なんて分からない、と誰かが言っていたけれど、それでもやっぱり分かってしまう。なんとなくだったとしても、だいたい当たっているものだ。

 こんなこと口が裂けても言えないけれど、クラスメイトとは安心感がまるで違う。先輩は、わたしみたいなちっぽけな人間よりも、ずっとずっと大人に見えた。生まれた年がふたつしか違わないのに、この差は本当に大きなものだ。


「お、来た」


 そのとき、ガタンゴトンとオノマトペ通りの音を立てて、再び電車がやってきた。さらりと桜色の風が吹いて、先輩の髪が揺れる。


「今度は乗れそうか?」


 からかうような口調で訊かれ、はい、とうなずく。わたしの返事に「よし」と笑った先輩は、ベンチから立ち上がって鞄を持った。

 右から走ってきた電車が、数十分前を彷彿とさせるように目の前で止まる。キイ────という耳障りな音はさっきと何も変わっていないのに、今はあまり気にならなかった。