「頑張らなくていいっていうのは」


 ぽん、と何かが頭にのった。それが何なのか、暗い視界の中でも分かってしまう。


「必死に頑張ってるやつが、他人から言われる権利を持つ言葉なんだよ。瑠胡はちゃんと、言われる権利を持ってるよ。頑張るのをやめるんじゃなくて、頑張りすぎるのをやめるだけ。頑張りすぎて自分をぶっ壊してたら元も子もないだろ」


 優しい音で一つひとつ、木漏れ日のように落ちてくる。心の奥の凍りついた部分に差し込んで、ゆっくりと溶かしていく。こんなふうに、絆されていくのははじめてだった。ずっと秘めて固く閉ざしていた部分を、するするとすり抜けられているような感覚がする。


「肩の力抜いて、もっと楽に生きようぜ。そしたら少しは生きたいって思えるかもしれねえから」
「……もし思えなかったら?」
「俺が思わせてみせるよ」


 ゆっくりと顔をあげると、静かな微笑みがそこにはあった。綺麗な目が細くなって、口許が少しだけ緩んでいる。どんなことでも受け止めるよと、そう言われているような気がした。これはわたしに都合がいいだけの、勝手な解釈かもしれない。それでも、彼がこんなふうに笑ってくれるのなら、その優しさに甘えてしまいたくなった。

 彼の言葉を聞いているうちに、自然と涙が引っ込んでいく。


「瑠胡は一年だよな」


 はい、とうなずく。新入生特有の雰囲気のせいだろうか、彼にはバレていたみたいだ。駅で泣くほど余裕がなくなるのだから、そう考えられても仕方がないか、と思う。二年生や三年生になって余裕が生まれている未来はみえないけれど、とりあえず今のような精神状態からは抜け出せていると信じたい。


「先輩、ですよね」


 わたしの問いに、「まあ一応は」と答える彼。身体中から滲み出ている余裕と落ち着きっぷりから、同級生ではないのだろうという予想はしていた。案の定先輩だったらしい。