誰にも理解されない苦しみを抱えながら、それが当然なのだと諦めていた。


(だけど)


 彼と出会って、彼の考えに触れるたび、わたしの中の何かが静かに、けれど確かに動きだす音がした。

 普通になりたかったはずのわたしが、唯一、特別を願ってしまった。


 世界中から非難され、後ろ指を指されたとしても、彼が、彼だけが、笑顔でわたしを迎えてくれるのなら。


 どんなことでも、できるような気がした。



『そろそろアイツ、壊れるだろうから。どうか守ってやってほしい』


『アイツはすごく弱いから。僕よりもずっと、脆くて弱いやつだから』



 ハクトくんは言っていた。

 そろそろ先輩が壊れてしまうと。


 あんなに強くて、立派で、まっすぐに前を向いている先輩が。

 この先で、壊れてしまうのだと。



『きらい……だよ』



 走っていって引きとめて、話を聞くべきだった。ウザがられても、真正面からぶつかっていけばよかった。

 なにを素直に納得していたのだろう。


 わたしはまだ、彼の『心』に触れられていない。

 いつも助けてもらうばかりで、わたしが彼に何かをしてあげられたことなんて、ひとつもないのだ。