「わたし……行かなきゃ」


 ベッドから降り、保健室を出ようとすると、「待って瑠胡ちゃん」と呼び止められる。

 振り返ると、焦ったような顔でこちらに手を伸ばす琴亜ちゃんがいた。


「まだ身体冷えてるかもしれないのに、危ないよ。それに、先生に健康観察してもらわなきゃ」

「ごめん、琴亜ちゃん」


 きっと彼女は、わたしが目覚めるまで、ずっとここに座って待っていてくれたのだろう。

 そんな彼女を置いて飛び出すなんて、失礼極まりない行為かもしれない。


「だけど、行かないといけないから」

「どこに……?」

「────信じてる人のところに」


 嫌いだと言われて突き放されても、邪魔者扱いされても、迷惑がられてもそれでもいい。

 ただ、わたしは向かわないといけない。そう誰かが告げていた。


 過去のわたしか、未来のわたしか、今のわたしか。行け、走れと、そう叫びながら背中を押すのだ。


「わかった。いってらっしゃい、瑠胡ちゃん」


 何かを悟ったように強くうなずいた琴亜ちゃんは、目を細めて手を振った。

 うなずきを返して、保健室を飛び出す。


 がむしゃらに廊下を走った。通り過ぎる人たちの視線が刺さるけれど、そんなものはもうどうでもよかった。


(先輩に好きだって伝えよう。それで最後にするから、全部ぜんぶ話してしまおう)


 拒絶されても、それでもいいと思った。

 この気持ちを伝えた先にある結果なら。



『俺が思わせてみせるよ』


『瑠胡はいま大丈夫じゃない。だから嘘つくな、ありのままでいい』


『俺のこと、信じろとは言わないけど────信じていいよ』


『死にたいわけじゃねえけど、生きたくもなくなんの。あの感情って何なんだろうな』



 嫌われるのが怖かった。

 好かれなくてもいいから誰からも嫌われたくないと、そう思いながら人の機嫌をとって生活していた。