「……っ」
「おい、また泣くのか」
「ごめ……んなさ……っ」
「謝んな」


 仲間がいたとか、分かり合えたとか、そういうことではなかった。ただ、わたしが長年抱いていたこの感情は間違ったものではなかったのだと思えたことが、たまらなく嬉しかったのだ。

 死にたい、消えたい。言葉ではそう言ったり思ったりしていても、実際は違う。"生きていたくない"のだ。自分で死んではいけない。死にたいなんて言葉使ってはいけない。そんなの、誰だってわかっている。生きていたいと思えなくなるからその道を選ぶだけで、初めから死にたいなんて思って生まれてくるわけじゃない。


「泣かれると困るんだけどな……悪い」


 静寂が落ちた次の瞬間、ふわりとウッディ系の香りが鼻腔をつく。クラスメイトが漂わせるような鼻を刺激する甘ったるいにおいとは違って、馴染みのある心地よい香りだった。

それと同時に、あたたかさに包まれる。先ほどと同じ、二度目の感覚。まるで静かな森の中にいるようだった。


「頑張りすぎ……なんじゃねえの」


 肩を揺らして嗚咽を堪えようとすれば、わたしを抱きしめる手に力が込められる。


「……頑張らないと、生きていけません。誰もわたしを見てくれなくなります」


 いずれは、落ちこぼれ、って。そんな下卑た言葉を投げつけられるようになってしまう。頑張らないと生きていけないのがこの世界だ。生きても苦しい、死んでも苦しい。ここはまるで生き地獄。


「名前、教えて」
「……木月(きづき)です。木月、瑠胡(るこ)


 ここまで自然に名乗れたのは久しぶりだ。まず名前をきかれることがないし、きかれたとしても苗字しか言わないから。フルネームを並べるのはどこか違和感があるけれど、それ以上に何の抵抗もなく名乗れた自分に驚いた。