案の定、待遇は逆戻りだった。
布団もテーブルも本も、お菓子や飲み物も消えた。
でも食事だけは取り上げられなかった。
以前のように、1日にコンビニのおにぎりふたつというわびしいものではあるけれど。
(何でなんだろ……)
わたしが自暴自棄になって自ら死を選ぶのを危惧しているのかな。
あるいは痩せて拘束を抜け出すのを警戒しているのかも。
(どっちでもいいけど)
少なくとも今、そんな力はない。
精神的にも身体的にも、燃え尽きてしまっている。
あの日のことが何度も何度も頭を過ぎった。
────冷静に考えれば、あんなところに鞄なんて置いておくはずがない。
紛れもなく罠だ。
『……違うよ。俺はいつでも本気だった』
『芽依も俺のこと信じてくれるかなって、期待してたんだけどなぁ』
ぎゅう、と拳を握り締める。
(よく言うよ……)
わたしを痛めつけて黙らせる口実にしたかっただけのくせに。
でも、十和くんの思惑は当たった。
わたしは完全に無気力状態になっていた。
瞬きも呼吸も億劫で、日がな床にうずくまる毎日だ。
部屋の鍵を開ける手段がなくなり、脱出が遠のいた。
今さら彼に道理を説いて訴えても無意味だし、蔑んだところで気休めにしかならない。
やっぱり、黙って素直に従っておくのが正しかったのかもしれない。
そうすれば少なくとも痛い思いや苦しい思いはせずに済んだし、そこそこの快適さは保証されていた。
そうやって助けを待つのが正解だったのかな。
(でも、それっていつ来るの……?)
そもそも来るのかどうかも分からない。
わたしの存在はもう、外の世界では殺されているかもしれない。
体勢を変え、カーテンの下で仰向けになる。
窓から白い光が射し込んでくる。
両手足とも拘束されていると、こんなに窮屈だったっけ。
(そういえば)
外へ思いを馳せ、ふと先生のことを思い出した。
わたしが攫われるより前、先生は浮かない顔をしていることが多かった。
最後に会った日は笑顔を見られたけれど……。
何かに悩んでいたようだった。
それはどうなったんだろう。解決したのかな。
(……もう、どうでもいいけど)