夜が明けた。
ここへ来てから、恐らくそろそろ1週間が経つ。
朝食を終えると、わたしはまた彼を呼び止めた。
「お願いがあって……」
「なーに?」
何となくだけれど、今の十和くんの機嫌は悪くないように思えた。
願い出るなら今がチャンスだ。
それでも、突っぱねられるかもしれないことも覚悟しつつ、わたしは口を開く。
「出来ればね、もう少し何か食べたいの。あとは布団とか……せめてクッションかブランケットがあると嬉しいなって」
さすがに図々しい申し出だっただろうか。
言いながら不安になって、だんだん声が萎んでいく。
「あー、そうだよね」
彼の反応を恐れていたものの、不興は買わずに済んだみたいだ。
むしろどこか嬉々としてさえいる。
十和くんは柔らかく笑って、わたしの両肩に優しく手を置いた。
「気遣えなくてごめんね? 帰り、楽しみにしてて」
そう残してドアの方へ向かうと「行ってきまーす」と出ていってしまった。
聞き入れて貰えた、と受け取っていいのだろうか。
ひとまず安堵して息をつく。
やけに上機嫌なのは、わたしから逃亡の意図を感じないためだろう。
快適性を求めるということは、少なくともこの生活を続ける気があると解釈出来る。
『だから、わたしと一緒に暮らそう……。十和、くん』
彼の中で、わたしの言葉が真実味を帯びたはずだ。
『うん……。いるよ、そばに』
我慢して、こらえて、耐え忍んだ甲斐があった。
辛酸を嘗めてきたのは無駄じゃなかった。
こうやって、少しずつでも進んでいくしかない。
彼の信用を得て、生き抜いて、ここから出るんだ。
* * *
────放課後、友人に手を振りつつ教室を出ていこうとする十和に声がかけられた。
「朝倉」
振り返ると、そこにいたのは担任の宇佐美だった。
「何? 先生」
顔を綻ばせ、首を傾げる。
宇佐美は対照的に険しい表情をしていた。
「日下のこと……何か知らないか」
不意に十和の顔から笑みが消える。
予想通りの問いかけと言えばそうだが、さざめいた心が波立つ。
ノイズのような喧騒が遠のき、揺らぐ感情が思考を割ってうごめいた。
「……芽依ちゃんのこと?」
「ああ。日下が行方不明になった日の放課後、お前と一緒にいただろう」