*


 また、2日が経った。

『今日から俺が許すまでご飯抜きね。脱走しようとした罰だから』

 そう言われたのは、両脚に傷を負った夜の翌朝だった。

 それから水一滴すら口にさせて貰えず、わたしは完全に無気力状態となっていた。

 心身ともにすり減って疲弊(ひへい)し、血の染み込んだ床に倒れていた。
 もう、心も身体もぼろぼろだ。

「……けて」

 乾いた唇の隙間から、勝手に言葉がこぼれていく。

「助けて……」

 じわ、と涙が込み上げる。
 ()せて(かす)んだ視界が余計に不明瞭になった。

 ただでさえ脱水状態だというのに、どうして涙や血は止めどなくあふれていってしまうのだろう。

「……たすけて、先生……」

 わたしが行方不明になっていることは、もう先生も分かっているはずだ。

(心配、してくれてるかな……?)

 先生の存在だけが、今のわたしにとっては唯一の心の支えだった。

 彼がいるから、彼に会いたいから、諦めないでいられる。

 目を閉じると、涙が伝い落ちた。

(お願い……)

 ────どうか、思い出して欲しい。

 わたしがいなくなった日、最後に朝倉くんと一緒にいたこと。

 あのとき、わたしたちが一緒だったことを確かに先生も把握しているはずだ。

 ……先生のことだから、もう朝倉くんにも事情を聞いたかもしれない。

 でも、朝倉くんは表向き誰に対してもフレンドリーな人気者で、先生とも仲がいいようだったから、もしかすると丸め込まれてしまったかも……。

 もしくは最悪の場合、わたしのことを尋ね回ったせいで先生まで毒牙(どくが)にかかる可能性がある。

 そんなことになるくらいなら、朝倉くんに騙されてくれていた方がましだ。

(そう思うのに……)

 どこかで期待している。
 先生がわたしを見つけて、助けに来てくれることを────。



*



 重たい腕をもたげ、噛んで袖を下げてみた。
 そこにはくっきりと、赤紫色の手の痕が刻まれている。

 あの夜、彼が強く握り締めていたわけはこれだったのだと、翌朝に出来た(あざ)を見て気が付いた。
 マーキングか何かのつもりだろうか。

(最悪……)

 腕を下ろし、袖を戻しておく。
 もう二度と見たくない。長袖でよかった。

「…………」

 ぼんやりと天井を眺めながら、ため息をついた。

 憔悴(しょうすい)しきって無気力になっていても、喉は渇くしお腹も空く。

 空腹を誤魔化すために眠ってしまいたくても、かえって(さまた)げられていた。