────また、一夜明けた。



 あの後、日が暮れると朝倉くんは夕食を運んできた。

 渡されたコンビニのビニール袋の中には、一昨日と同じようにおにぎりとお茶が入っていた。

 そのとき、わたしが拒絶していた分を食べきっていることに気がついた彼は「ほらね」とでも言いたげに笑った。

 悪態(あくたい)をつきたいのをこらえ、わたしは唇を噛んだ。

(……勘違いしないでよ)

 脅されたから従ったんじゃない。
 わたしはわたしの命を繋ぎたいだけだ。

 支給された夕食も、ちゃんと完食した。
 仲直りのクッキーも、割って(、、、)食べた。

 出されたものを食べないとか、そういう些細(ささい)なことでまた不興(ふきょう)を買いたくなかったし、そういう些細な抵抗は無意味だと悟ったのだ。



「じゃあ行ってくるね、芽依ちゃん」

 制服に着替えた朝倉くんは部屋へ来ると、労るようにわたしの頬を撫でた。

 ぞわ、と肌が粟立ち、身体が強張る。

 そんな強い嫌悪感を表に出さないよう努めながら、わたしは平静の仮面を貼りつけた。

「行ってくるね?」

 彼は何かを期待するような眼差しを寄越しつつ繰り返す。

 それが何なのかぴんと来なくて、戸惑うように(またた)いた。

「ちょっとー。“行ってらっしゃい”って言ってよ。憧れてたんだよ、俺。一緒に住むってなったら、そういうもんでしょ」

 寒気がした。
 “一緒に住む”なんて響きのいいものじゃない。

 彼の中ではこの状況が、異常でも何でもないのかもしれない。

「聞いてるー?」

「……うん、行ってらっしゃい」

 色々なものをこらえ、小さく告げた。

 二度と帰って来ないで、とまで言えたら少しは気が晴れたかもしれない。

 望み通りの言葉を受けた朝倉くんは、ぱぁっと嬉しそうに笑顔を咲かせて頷いた。

「うん、行ってきまーす」

 部屋のドアが閉まり、ほどなくして玄関の開閉音と鍵をかける音が小さく聞こえた。



 つい、重く深いため息をつく。
 一人になっても気が休まらない。

 思うように手足を伸ばせないこともかなりストレスだった。

 足首を拘束されている時点で、座るか寝転ぶしかないのだけれど、フローリングには何も敷かれていないため身体のあちこちが痛い。

 彼の置いていったビニール袋を覗いた。

 中身は相変わらず、おにぎりひとつとお茶────朝と昼は兼用で1日2食のようだ。

 わたしはカーテンの下に仰向けになった。
 白い光がこぼれて射し込んでいる。

(外……どうなってるだろう)