────4月。
芽依と出会ったのは始業式の日。
彼女とは隣の席だった。
「俺、朝倉十和。よろしくー、芽依ちゃん」
「えっ? あ、よろしく……」
見るからに怪訝そうな顔をされた。
“はじめまして”なのに、いきなり馴れ馴れし過ぎたか。
「ごめんね。座席表見たんだけど、苗字の読み方分かんなくてさ」
「あ……。あぁ、そういうこと」
苦く笑いながら言うと、芽依は腑に落ちたように頷いた。
「くさかって読むの。日下芽依。改めてよろしくね、朝倉くん」
すっかり警戒を解いたように、ふわりと笑ってくれる。
可愛らしい子だった。
背が低くて華奢で、髪が綺麗で、女の子らしい。
そんなふうに話したことをきっかけに、ちょくちょく関わるようになった。
そんな中、俺が“疑惑”を持ち始めたのは中間テストが返された後のこと。
颯真の担当だから特に数学を頑張ったけれど、あまり点数が振るわなかった。
やっぱり勉強は嫌い。
「よく頑張ったな、日下」
そんな颯真の声にはっとした。
彼の顔には優しい微笑が浮かんでいる。
(いいなぁ)
いい点とったらあんなふうに褒めて貰えるんだ。
羨みつつもふてくされ、席へ戻ってくる芽依を見やる。
何やら相当嬉しそうにしていた。
「そんなに点数よかったの?」
「え!? ……ううん、別に」
そう言う割に、何だかそわそわしている。
白い頬を桜色に染め、照れくさそうに口元まで緩めて。
テストの結果を喜んでいるだけには見えない。
……この感じ、知っている。何度も目にしたことがある。
恋をしている、幸せそうな顔。
(まさか、颯真に……?)
眉をひそめる。
心の中がざわめき出す。
ちょっとショックだった。
彼女とはいい友だちでいられると思っていたのに。
*
「え、手紙?」
颯真と一緒に夕食を取りながら、切り出された話に衝撃を受ける。
「ああ……。最近、俺のシューズロッカーに入れられてるんだ。差出人不明の手紙が」
「へー、どんなの?」
渡されたのは可愛らしい封筒。
便箋いっぱいに丸っこい文字で、颯真への想いが綴られている。
「……ラブレターだね」
肩をすくめ、苦く言った。
差出人の名前はないが、文面的に生徒からだと読み取れる。
心の中のざわめきとはびこる黒い靄が濃く強くなっていくのを自覚しながら、あえておどけるように続けた。
「しかも生徒から? 禁断の恋じゃん」
「……茶化すな。俺も困ってるんだ」
よかった、と内心思う。
この手紙の主に颯真をとられるようなことはひとまずなさそうだ。
くす、と思わず笑いながら、折り畳んだ便箋を封筒へ戻す。
「じゃあ俺が解決してあげるよ」