※本編ネタバレ注意!
“先生”視点のストーリーです。

※イラスト:ミカスケ 様

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「……?」

 シューズロッカーを開け、首を傾げる。
 今日もまた“謎の封筒”が入っていた。

 周囲を見回すが、特に人影はない。

 俺は封筒を取り出してみた。
 淡いピンク地にリボンやレースの柄が入った、いかにも可愛らしいデザインだ。

 裏返してみても差出人の名前は書いていない。

 職員用のシューズロッカーは生徒たちのものと同様に錠のないタイプで、誰でも容易に開け閉め出来る。

 そのせいで誰が入れたのか、その現場を目撃でもしない限り特定するのは難しかった。

「またか……」

 これで何度目だろう。
 中身は大抵(たいてい)、手紙だった。

 丸っこい文字でつらつらと想いの(つづ)られた、いわゆるラブレター。

 誰からの告白かも分からない以上、返事のしようもないのに。
 どういうつもりでここに入れているのだろう。



 車に乗り込み、先ほどの手紙を開いてみる。

 内容はどれも代わり映えしないが、本気なのだという熱意は伝わってきた。

 相手が誰なのかは分からないが、生徒であろうことは読み取れる。

 “宇佐美先生の授業がいつも楽しみです”とあるのだ。
 俺の受け持っている生徒ということだろう。

「…………」

 最初はいたずらだと思い、無視するつもりだった。
 しかしだんだんと手紙の頻度が増え、そうもいかなくなった。

(もし俺が国語の教師だったら……)

 ノートやテストの筆跡と照合して特定出来たかもしれない。

 国語担当の教員に聞いてみようかとも考えたが、断りもなく人の手紙(しかもラブレター)を見せるのは気が引けた。
 誤解されて不祥事(ふしょうじ)扱いされても困るし。



(────そうだ、時間)

 はっとした。
 今日は大学時代の友人と会う約束をしていたのだった。

 腕時計を見やる。19時半。
 手紙をしまうと車を発進させた。



*



「あ、来た来た」

 指定された居酒屋の前にふたりの人影があった。
 どちらも同じ大学出身の気心知れた友人だ。

「遅ぇよ、颯真(そうま)。どんだけ待たせんだよ」

「そうよー。しかも車で来たの?」

「悪い。家戻ってる時間なかったんだ」

 合流しつつ、辺りを見回す。
 4人で集まる予定だったが、もうひとりの姿がない。

「……紗奈(さな)は?」

「昨日まで乗り気だったんだけどね。今日はなぜかずっと連絡つかないの」

 妙だとは思ったが、深くは気に()めなかった。
 そのうち来るだろう、と軽く考えながら、3人で店へ入る。

 しかしその日、彼女が現れることはなかった。



 一向に連絡がないまま、気付けば1週間以上が過ぎていた────。