何を、だろう。
 尋ねるように見上げれば、こちらを向かないまま続けた。

「芽依がいなくなったこと、ほとんどの人は知らないんだよ。報道されてないから」

「え……っ」

「“事件性がある”って思われてるからだとしたら、犯人を刺激しないためかな。そうじゃないなら、ただの家出って思われてるかも」

 わたしたちのことなのに、十和くんはどこか他人事(ひとごと)みたいな言い方だった。

「いなくなってから1週間以上経ってる。普通に考えてもう見つかんないよ」

 手がかりはきっと、校門前の防犯カメラ映像だけ。

 気を失った後の足跡は何も残っていないはずだ。
 十和くんが記録に残らないように動いただろうから。

 あるいは残っていたとしても、もう上書き保存されて消えてしまったかもしれない。

 ふと、彼の横顔が暗く(かげ)った。

「でもさ……警察より熱心に君を捜してる人がいるんだよね」

「だ、誰?」

 両親だろうか。
 真っ先にそう思ったが、十和くんの表情を見れば違うことは明白だった。

「……先生だよ」

 どく、と心臓が大きく鳴る。
 瞳が揺らいでしまうのを自覚した。

(何で?)

 先生は確かに生徒思いで優しい。
 でも、わたしを捜しているのは本当にそれだけが理由?

 夢で見た光景がちらつく。
 砂を()いたみたいに記憶が(かす)む。

「意味分かんないよね。……俺もほんとムカついてる」

 十和くんの表情に苛立ちの気配が宿った。
 その低めた声は冷たいのに、確かな怒りが(たぎ)っている。

「……っ」

 先生が殺人鬼かもしれない可能性を口にするべきか迷った。
 でも、何となく言えなかった。

 彼がその可能性に気付いていないのだとしたら、下手なことを言って危険に(さら)したくない。

 先生の標的がわたしなら、一緒にいる時点で巻き込んでしまっていることに変わりはないのだけれど。

「だ、大丈夫なの? もし先生に見つかったら────」

 彼が独自にわたしを捜索しているというのなら、外のどこも危険な気がする。

 こんなふうに出歩いていていいのだろうか。