(となると、誤って化粧箱を落としたという線はなしだ。侵入した賊と対峙した侍女が隙を作るために投げた、が正解だろうな。ぶちまけた中身を回収し、表面上は取り繕おうとした様だが……爪が甘いな)

 シルディアに着けている魔具の位置を探れば、まだ城の敷地からは出ていないことが分かった。
 ふっと笑みを零し、オデルは告げる。

「そうか。俺はシルディアを迎えに行く」
「恐れながら陛下。我々にお任せください。我々騎士が全身全霊で捜索しております」
「聞くが、お前達はシルディアの居場所を特定できたのか?」
「申し訳ありません。まだ調査中でして……。足跡すらなく……。ですが安心してください。騎士団長の采配で、城下を中心に捜索を広げております。ひとまず城下に検問を設けました」

 そのぐらいは賊の予想の範疇だろう。
 検問が成されると見越して敷地内にいるとしたら、相手は騎士団の動きを看破していると見るべきだ。
 警戒網が解かれるまで城の敷地内に潜伏すれば、賊の勝利なのだから。
 灯台下暗しとはよく言ったものだ。
 外へと連れ出せば、徐々に広がる包囲網では確実に間に合わなかったというのに、なぜ敷地内に潜伏しているのか。

(騎士団を掻い潜る度量を持っていながら、なぜまだ敷地内にいる? 誘っているのか……? それ以前に侍女を連れて行く意味はないはずだ。どうしても侍女を連れて行きたかった理由はなんだ?)
『侍女も共犯なんじゃない?』
(うるさいな。今考えているんだ。少し黙ってろ)
『つがいが拐われたのは君の失態じゃないか。八つ当たりはよくないと思うな』
(ちっ。俺を殺そうとする奴は多いが、侍女を捨て置かないような慈悲深い奴なんているわけが……いや、いるじゃないか。侍女の父であり、十二年前ニエルドの怒りを買った男が……!!)
「陛下? どうされました?」
『無能ばかりだね。誘拐の基本がなってない。平和というぬるま湯に浸かりすぎて対応がおざなりだね。それに比べて、あの新米騎士の娘! あの子はなかなか使えそうだよ。なんたって、賊が二人だって報告してくれたもんね』
「……わかった。騎士団は引き上げろ」
「!? ど、どうしてですか!?」
「俺が行く」
「で、ですが……」
「くどい。騎士団は捜索からは撤収。夜会参加者達が安心して帰れるよう尽力するように。わかったな」
「……承知しました。そのように伝えます」
「あぁ」

 わざとらしくマントを翻し、オデルはただ眩しいだけの会場を後にした。

(誘いに乗ってやるとするか)