とても懐かしい感じだ。



これが本来の私だ。



中に入ると、綺麗な着物を着た少女が、私をじっと見つめていた。
鮮やかな赤に黒い蝶が刺繍されている。
その刺繍がどこか自分の家紋に似ている気がした。

少女は私に後をついてくるように指示を出してきた。

私は、何も考えることなく後を歩いた。


見事な庭園を通り抜ける途中、京都の寺を裕美と二人で歩いたことを想いだした。



裕美は何をしているのだろうか。



かなりの長い時間、歩かさせられた気がする。


突如、少女は止まり金で彩られた襖を開け、中で待つようにと指示を出し何処かに消えて行った。

中を覗くと、いつも泊まるスイートルームの二倍か三倍の広さの空間に畳が、ビッシリと敷き詰められていた。

微かに薫る艾の香りを匂いながら、私は神にでもなったかのように畳の大海原を歩いた。

奥には簾が掛かった寝室がある。
私は、それを見るなり何十年も寝ていない気がした。

そんなことを感じていると、中から着物の乱れた女が哀しい表情を浮かべながら走り去った。





まさか・・・



裕美・・・



確かに今、髪型こそ違うが彼女が通った。



なぜ、ここに。



振り返ると、既にそこには、人の気配すらなかった。

すると突然、簾が上がり中から、雪のように真っ白な着物の帯を巻きながら男が出てきた。



私だ・・・



私なのか・・・



お前は、誰だ・・・



私は、誰だ・・・



男は、私と眼を合わしニヤリと笑った。

そして、ゆっくりと右手を肩の高さまで上げながら、掌を私に近づけた。

左の掌が、私の意志から独立し勝手に動き出した。
そして、相手の掌に合わさった。

物凄い光と音とともに、何かに吸い込まれるような感覚を感じながら、私の意識は落ちていった。


真っ白で何もない。



懐かしい感じだ。



貸し切りの遊園地を独りで駆け回る。



大人達が子供の私に媚びを売る。