それを続けて3ヶ月
川村先生という女の先生が
更衣室にいる理緒に話しかけてきた。

「あなた、お名前は?」

「加納理緒です」

「フィギュアスケートが好きなの?」

「はい」

「どこまで上手くなりたいの?」

「どこまでも上手くなりたいです」

「…理緒ちゃんは、将来
どうなりたいの?」

「はい、できるところまでやりたいです」

「…出来るところまで?」

「はい、できるところまで
出来る限りのことを
出来るまで、やりたいです」

川村先生は
じっと理緒の顔を見つめた。

「お母さんと、お父さんは
何て言ってるの?」

「…あの、あんまり家で 
話さなくて…」

理緒が、もじもじしながら答えた。

川村先生は、なんとなく
理緒の家の事情を悟った。

「これから学校が終わって
16時に、このリンクに来なさい
毎日よ。毎日必ずここに来なさい
これからは、
マンツーマンで指導します

4ヶ月後、ジュニアの
小さな大会があるの

あなたには急いで
振り付けを覚えてもらいます。

古いもので良かったら私の娘が
着ていた衣装があるので
それを着て出場して。

あと4ヶ月しかないから
頑張ってちょうだい」

それだけ言うと
川村先生は更衣室から去って行った。

理緒の目は輝いていた。