ふわっと、濃く覚えてしまった香り。

私の机を拠点に、向かい合うように立っている穂乃花ちゃんと、私のすぐ隣に屈むみたく立った結多くん。



「もちろんその日は俺、家の予定があるから前みたいに参加できないけどごめんよ泣かないで。だからさ、ふたりで行って俺のためにも写真10枚は撮ってきてくんないかなーって」


「水篠くんもこのキャラクター好きなの…?」


「うんうん。週刊少年チャンプに出てくるやつでしょ?」


「………いや……、出てない…かな」


「あっらマジで?ほら俺の世界線って最先端すぎてみんなが追い付けてねえとこあるからあははっ」



結多くん節は、どんな場所だとしても使うことができる。

こんなにも簡単に混ざってしまえる才能。


そのなかでもしょっちゅうぶつかる目が、私だけに見せてくれる甘さを含んでいた。



「このみちゃん、どう?行ってみる?」



穂乃花ちゃんが好きなファッションブランドも知らない。

きっと退屈な思いをさせちゃうかもしれない。


それでも「大丈夫だよ、ぜったいもっと仲良くなれるよ」と言ってくれているみたいに、背中に当てられた手。