悲鳴さえ上げることもできないで顔を向けてみると、やっぱり見知らぬ男性だった。
「よしっ、やっと捕まえたぞ…!」
「はっ、離してください…っ」
「なななっ、なぜだ!あのときは優しくしてくれたってのに…!」
「……え…」
「ほらっ、小銭を落としたとき!拾ってくれたじゃないか!」
はあはあと、荒くさせている息。
黒いダウンジャケット、深く被ったキャスケット。
覗いた右目の下に大きめのホクロ、口周りの無精髭。
目の下のホクロ───特徴が分かりにくいなあと、数日前に防犯カメラ映像を確認しては嘆いていた店長を思い出した。
「あ、あなた……は、」
「やった!思い出してくれた?」
万引き犯だ───。
バイト先のコンビニにて、缶ビールを盗んで出ていった客がいると、従業員はグループチャットでも情報を共有していた。
もちろん私も頭に入れていて、それだけは記憶に置いていた。
………間違いない。
この細い目と、特徴が薄いなかでの唯一のホクロ。