「このみちゃん!」


「っ!」



そのとき、駆け寄ってきた人影。



「間に合ったっ、ごめん電車遅延しててさ!」



ぼやけた視界を振り払うように「ゆいたくん…!」と、地面を蹴る。


迎えにいくことが当たり前みたいにしてしまう彼の優しさが、冷えた身体と心をほんのり温めてくれた。



「もう9月も終わるんだって。長いようでやっぱ早ぇよねー」


「…ほんとだよね」


「……このみちゃん、最近なにかあった?」



なにもないよ。

結多くんみたいになりたくてここまでやってきたんだから、結多くんに吐き出してたら意味ないもん。


ぎこちなく首を横に振って、ごまかす。



「このみちゃん」


「……っ」



だめだよ、そんなに優しい顔したら。
だめだよ、そんなに優しい声してたら。

私だけ?私だけだよね?私だけにしてって、嫌な感情が出てくる。


結多くんは基本、だれにでも優しいひと。