毒気が出現して15年。


この狭い国の中で隣人を支え合って生きてきた国民たちは、最後まで決して争わなかった。そして己の利益のためだけに、隣人である他国を踏みにじる選択を選ばなかった。


カルラ国民の隣人を尊ぶ気高い精神、理性的な話し合いは、


とても、人間的だった。



薄紅色の瞳を潤ませていたサーシャの隣で、帽子を深くかぶった男性が立ち上がった。


「追いつめられた状況で、非情に生きるを選ばず、なぜか慈しみに満ちた愛を見せる」


涙ぐみ、鼻を赤くするサーシャを見つめて黒目の彼は薄く笑った。


「我は人間のそういう愚かなところが、好きじゃ」