この場で反対意見を出すことは勇気のいることだった。だが、これから母となる女性は生涯の勇気を振り絞って切なる声を口にした。


涙を零し始めた妊婦の女性の背を夫が撫でる。レオナルドは頷いて、彼女の意見も真っ当であることを受け止めた。


「国を出て行くならば、国境まで騎士団が護衛する。国を出たあとの手助けは何もしてやれないが、国境までは俺が守ると約束しよう」

「あ、ありがとうございます、王様!!」


レオナルドの返事に、妊婦の女性は泣き崩れた。一般国民は大蜘蛛の闊歩する死の森を抜けられない。だが騎士団の護衛があれば脱出は可能だ。


カルラ国を捨てて隣国へ逃げる。亡命もまた選択の一つである。


レオナルドは国民の声が静まるのを待ち、王の決断を下した。


「俺は最後の王として、カルラ国と共に終わることを選ぶ。それが国を守り抜けなかった俺の責任だ」