〇 東高校・1年A組
   教室でぽつんと一人で座っているつばめ。
   まわりは楽しそうにおしゃべりしたりしていて、既に仲間の輪ができている。
生徒A「あの子、セフレが100人くらいいるらしいよ」
生徒B「星山くんのこともセフレにしようとしてたんだって」
   わざとつばめに聞こえるように陰口を言う生徒たち。
   つばめ、後ろを振り向くと、彼らををキッとにらむ。
   彼らがヒッと肩を震わせる。
つばめ(大丈夫、私はこれで。このほうが、きっといい)
   その時、教室に理輝が入ってくる。
   目が合う、つばめと理輝。
   その瞬間、おもわず机に突っ伏すつばめ。
理輝「……」
   理輝、つばめに何か言いたげな表情で見つめるが、あきらめて自分の席に座る。
   その途端、前の席に座る君嶋未央(15)がつばめを振り向き、そっと話しかけて来る。
未央「あの、大丈夫……?」
つばめ「え」
未央「昨日の。……私、違うってわかってるから」
つばめ「……?」
未央「あの、星山……くんの件」
つばめ「ああ。そう、あれはただの偶然で」
未央「わかってる。でも私が否定しても信じてもらえるかわからなくて。私、存在感薄いから」
つばめ「そんな」
未央「だからせめて、何か力になれることがあったら言ってね」
つばめ「……」
   未央、そう言うと、そそくさと前を向く。
つばめ(そんなこと初めて言われた……)
   (心の中、くすぐったい)
   未央の後ろ姿を見つめているつばめ。
つばめ「……ありがとう」
   未央、嬉しそうに笑うと、そっとつばめの方を振り向き
未央「私、君嶋未央。つばめちゃんって呼んでいい?」
つばめ「う、うん! えっと……」
未央「未央」
つばめ「……ありがと、未央ちゃん……」
   恥ずかしさを振り払い、下の名前で呼ぶつばめ。
   未央、そんなつばめを見て笑みをこぼし。
未央「よろしく、つばめちゃん」
と、未央がつばめの手に自分の手をポン、と置く。
あまりに突然のことに、手をよけられなかったつばめ。
   その瞬間、ぼやっとした光が輝いて。
つばめ「!」

   ×  ×  ×
〇 (インサート)つばめの脳内
   未央の顔めがけてバスケットボールが飛んでくる。
   床に倒れ、意識を失う未央。
   ×  ×  ×

つばめ「……」
未央「どうかした?」
つばめ(ボール……⁉)
   慌てて教室を見渡すと、ボールでパスをしている男子たち。
つばめ「あれだ……」
   つばめ、反射的にスカートの中に入れていたストップウォッチを押す。
   突然立ち上がるつばめに、未央が驚く。
未央「ど、どうしたの?」
   つばめ、男子たちの姿と、未央の顔を見比べる。
   いぶかしげな未央の顔。
   つばめ、未央を見つめて。
つばめ(助けなくちゃ……!)
つばめ「大丈夫だから」
未央「え?」
つばめ「私に任せて」
   つばめ、立ち上がると、
つばめ「ねえ! それ」
男子A「は?」
つばめ「外で、やってもらえないですか」
男子B「何だよ、優等生かよ」
男子A「あ、俺知ってる。こいつ、小学生の時からお節介でさ。妙なことも言うし、よくウザがられてたんだよ。な?」
つばめ「……それ、今関係ある?」
男子B「何だよ。お前こそ関係あんのかよ?」
つばめ「……危ないでしょ。このままだと、ケガする人だって」
男子B「は? うざ」
   つばめを無視してボールでパスし合う男子たち。
   つばめ、意を決してそのボールをカットして取る。
男子A「お前何すんだよ!」
つばめ「だから、危ないから」
男子B「返せよ」
   男子がつばめの手からボールを奪おうとする。
つばめ「……やめてっ」
手に触れそうになり、つばめは、まるで汚いものを触るかのように手を引っ込める。
男子A「何だよお前。俺だってお前になんか触りたくねえわ。自意識過剰じゃねえの」
つばめ「……別に、そういうわけじゃ」
   男子たち、つばめの存在が見えないかのようにボールを投げ続ける。
つばめ(どうしよう、このままじゃ……)
   そこへ、未央がやってきて。
未央「つばめちゃん大丈夫……?」
つばめ「未央ちゃん」
   その瞬間、未央の頭をかすめるようにしてボールが飛んでくる。
未央「きゃっ」
   その様子を見て、また面白そうに続けている男子たち。
つばめ(だめだ、未央ちゃんがここにいたら……)
   ポケットの中のストップウォッチは、既に40秒を過ぎている。
   その瞬間、理輝の声が響く。
理輝「教室でボールやんなよ、うるせーな」
   男子たちが目を見合わせる。
男子A「な、何だよお前」
理輝「うぜえんだよ」
男子B「は? 俺たちが何してよーとお前には関係ねえだろ」
理輝「関係ねえのに、関わってきてんのはお前らだろ。こんなことまでして、女子の気を引きたいわけ?」
男子A「は⁉ そんなこと」
理輝「だったら外行けよ。これ以上ここに居ても、好感度下がるだけだぞ」
   男子たちが周囲を見回すと、クラスメイトたちがヒソヒソ言っているのが見える。
男子A「ちっ」
舌打ちをして教室を出て行く男子たち。
   ほっと肩を撫でおろすつばめ。
つばめ「……あ……」
   理輝とふと目が合うが、理輝がふっと目をそらす。
つばめ「あの、ありがと」
理輝「別に。それよりさ」
   理輝、おもむろに近づくと、つばめの髪に触れようとする。
つばめ「ちょ、何……っ」
   つばめ、反射的にその手から逃れようとして、バランスをくずし。
   慌てて理輝がつばめの袖をつかみ、顔と顔が触れそうなくらい近づく。
   女子たちのキャーっという叫び声。
理輝「お前……何でこんな転ぶの」
つばめ「……誰のせいだと……」
理輝「……俺やっぱ、お前のカラダから目が離せねえわ」
つばめ「……⁉」
   クラス中が「体から目が離せないって⁉」「やっぱりヤったんだ……!」とざわつく。
つばめ(この人、なんでこんな誤解される言い回しばっかなの⁉)
   未央は理輝の様子を、意味ありげに見つめている。

〇 海(夕)
   防波堤に座り、ぼーっと海を眺めているつばめ。
つばめ「今日も、何とか乗り切った……?」
   バッグの中から「龍崎家之掟」と書かれたノートを取り出す。
   ぱらぱらとめくり、一つずつ読んでいく。
  『一、1分後の未来が見える力は、古来より龍崎家にだけ伝わる力である。
   一、力について、他言してはならぬ。
   一、力を悪用してはならぬ。
   一、むやみに力を使ってはならぬ。
   一、この力を途絶えさせてはならぬ。人助けに使え。』
   つばめ、ため息をつき。
つばめ「一人で生きていけば、迷惑もかからないのに」
   つばめ、ごろんと寝ころぶ。
   空を見上げるつばめ。

   ×  ×  ×
○ (フラッシュ)
つばめを見つめる理輝の顔。
   ×  ×  ×

つばめ「……何なのあいつ……!」
   つばめ、思い出して顔を手で隠す。
   が、突然、その顔をのぞき込む理輝が視界に入ってきて。
つばめ「⁉」
理輝「よう」
つばめ「……な、どうしてここに」
理輝「お前、昨日、これ忘れてっただろ」
   理輝の手には、つばめのポーチ。
つばめ「あ……! 私の」
理輝「さっき渡しそびれたから」
つばめ「……ありがと」
   渡そうとする理輝に対し、指先だけで受け取ろうとするつばめ。
理輝「……そんな嫌がる?」
つばめ「……別にそういう意味じゃなくて」
   理輝、気づいたように。
理輝「もしかして、昨日言ってたアレルギー的なやつ? 頭皮だけじゃねえの?」
つばめ「……全身です」
理輝「マジか。大変だなお前」
つばめ「……どうも」
   理輝、何か言いたげな表情でつばめの横に腰を下ろす。
つばめ「あの……何か御用ですか」
理輝「いや……悪かったな、昨日」
つばめ「え?」
理輝「あのあと考えてて。仮にもお前、俺のこと助けてくれたのに、クラスの奴らの前で怒鳴って悪かったなって」
つばめ「……」
理輝「助けてくれたんだよな?」
つばめ「……さあ」
   理輝、じっとつばめを見る。
理輝「俺は幽霊は信じないが、超常現象は信じるぞ」
つばめ「超常現象」
理輝「昨日のも、今日の教室のも。お前のそのアレルギーと、何か関係あんじゃねえの?」
   と、理輝がつばめの手をじっと見つめる。
つばめ「!」
   慌てて理輝と距離をとるつばめ。
つばめ「すみません、帰ります」
不満げな表情の理輝を無視して、慌てて立ち上がる。
つばめ(鋭い)
   理輝の視線に気づかないように、速足で歩くつばめ。
つばめ(やっぱり怪しまれてる……!)
   つばめ、背後からの視線を断ち切るように、小走りに。
   その途端、前から来た少年とぶつかる。
   光が揺れて――。
つばめ「!」

   ×  ×  ×
〇 (インサート)つばめの脳内
   風が吹き、少年がキャップを飛ばされる。
   それを追いかけ、海に飛び込む少年。
   ×  ×  ×

つばめ「危ない!」
少年「え?」
   きょとんとしている少年。
つばめ「あ……」
   つばめ、かがんで少年と目線を合わせる。
つばめ「あのさ、風吹いてるから、その帽子、手に持って歩こっか? 飛ばされちゃうと大変だから」
少年「大丈夫だよー。いつもかぶってるから」
つばめ「でも、ほら、風強いし」
少年「大丈夫大丈夫」
   つばめを無視して走っていこうとする少年。
つばめ「あ、ねえ待って!」
   つい、少年の腕をつかんでしまうつばめ。
   その瞬間、また光が揺らいで。

   ×  ×  ×
〇 (インサート)つばめの脳内
   少年が海でおぼれている。
   ×  ×  ×

つばめ「ダメ!」
少年「?」
つばめ「海に近づかないで!」
少年「お姉さん、何……?」
   少年は気味悪げにつばめの腕を振りほどくと、一人で走っていく。
つばめ「ちょっと待って!」
   つばめ、慌ててストップウォッチを押し、少年を追いかけていく。
   その途端強い風が吹き、少年の帽子が飛ばされる。
少年「あ」
   おもわず帽子を追いかける少年。
つばめ「待って、取りに行かないで!」
   帽子が浅瀬に落ち、少年が海に入って行く。
つばめ「待って!」
   つばめ、少年を追いかけ海に入る。
   少年が帽子を取ったところで、波に足をとられる。
つばめ「!」
   追いかけるが、つばめも足をとられる。
   波が頭の上から落ちてきて、海の中に引きずり込まれる少年とつばめ。
つばめ(だめだ、誰か……!)
   その時。
理輝「おい、大丈夫か!」
   理輝が海に飛び込み、少年をつかみ、引き上げる。
つばめ「……!」
   その様子を見てほっとするつばめ。
   理輝はつばめの元に戻ってきて、
理輝「しっかりしろ!」
   つばめの体をつかもうとする。
   しかしその瞬間、つばめは理輝の手を避ける。
つばめ(だめ……触れちゃだめ!)
   その反動でまたバランスを崩し、体が海に沈む。
つばめ(……あ……!)
理輝「!」
つばめ(誰か、助けて……!)
   理輝、腕を伸ばす。
   そしてつばめの体をぐっと自分の体に抱き寄せ――。
   しかしその瞬間、つばめの体に強い衝撃が走り、光が強く光り、揺らぐ。
つばめ「!」
   つばめ、そのまま意識を失う。

〇 倉庫(夜)
   ビニールシートのようなものの上に横たわっているつばめ。体には学生服がかけられている。
   ぼんやりと目を開ける。
つばめ「……?」
   ゆっくりと体を起こすと。
理輝「起きたか」
   少し離れた場所で、タオルをかぶって座っている理輝。
つばめ「え……ここ……?」
   辺りを見回すと、救命用のうきわやボートなどが壁にかけられている。
理輝「浜の倉庫」
つばめ「……?」
理輝「覚えてねえのかよ。お前、海で倒れたんだわ」
つばめ「あ……」
   ぼうっとした頭が晴れていく。
つばめ「あの男の子! どうなった⁉」
理輝「無事帰ったよ。もう無茶しないって約束させた」
つばめ「よかった……!」
   ほっとするつばめ。
理輝「いや、良くはねえな」
つばめ「え?」
理輝「俺ら今、ここに閉じこめられてる」
つばめ「……え⁉」
理輝「俺があんたのこと運んだあと、気づかずに鍵、閉められたっぽい」
つばめ「嘘……。あ、スマホは⁉」
理輝「浜」
つばめ「何で!」
理輝「当たり前だろ。お前を抱き上げて運んできたんだから、バッグなんか持てるはずねえわ」
つばめ「……」
理輝「とりあえず今やんなきゃいけねえのは」
   つばめ、ぶるっと濡れた体を震わせる。
理輝「そ。風邪どころじゃ済まねえかもしれねえから」
   そう言うと、ふと近づいてくる理輝。
理輝「悪いな。これ以上あっためるものがねえんだよ」
   体に巻いていたタオルを取り、上裸になった理輝がつばめに近づいてくる。
理輝「もうこれしか、ねえ」
つばめ(え……もしかして……)
   どんどんつばめに詰め寄る理輝。
つばめ「あの……ちょっと待って……」
理輝「嫌がってる場合じゃねえだろ」
つばめ(この展開は、もしやあの、雪山とかで見る……一緒に人肌で温まろう的な……⁉)
理輝「嫌でもいいから、我慢しろ」
   理輝、つばめに近づいて――。
つばめ(え、えええええ!)