〇 (フラッシュ)
つばめ「付き合いたいって言ったのも、私が好きって言ったことも、全部忘れてほしい」
つばめ「私、恭哉と結婚する」

〇 東高校・正門~道
   手をつないだまま、学校を出て行くつばめと恭哉。
   門を出たところで、すっと手を離すつばめ。
恭哉「わ、冷たーい」
つばめ「……協力してとは言ったけど、手をつないでなんて頼んでない」
恭哉「ひど。キスする気満々だったのに、手でとどめた俺を褒めてほしいくらいだわ」
つばめ「……感謝はしてる」
恭哉「どういたしまして」
   暗い表情で歩くつばめ。
   泣きはらした目をしている。
恭哉「……」
   恭哉、つばめの頭をぽんぽん、と叩く。
つばめ「……やめてよ」
恭哉「いいでしょ、これくらい。見てらんないもん、つばめのこと」
つばめ「……」
恭哉「別れて、学校もやめて、これからどうするつもり?」
つばめ「……」
   無視するつばめ。
   恭哉、ため息をついて。
恭哉「龍崎家の人間が普通の奴と付き合っていける唯一の条件が、相手もこの体質になる、ってことだったんでしょ」
つばめ「……知ってたの」
恭哉「だけどあいつには美容師になるという夢があって。触れられない体になると、美容師にはなれない」
つばめ「……」
恭哉「だからつばめは別れることを選んだ」
つばめ「何で……」
恭哉「わかるよ、それくらい。ずっとつばめのこと見てたんだから」
   つばめ、困った表情。
恭哉「自分で言うのもなんだけどさ、俺、つばめのこと大事にできると思うんだよね。つばめは本気にしてなかったと思うけど、俺は初めてつばめに会ったとき、将来結婚する相手だって言われて。それからずっと、つばめのことだけ想って生きてきたから」
つばめ「……」
恭哉「家のための結婚、って思うかもしれないけど。つばめの親もうちの親も、龍崎家に生まれて、こうして決められた相手と結婚して。でもそれなりに幸せそうだと思わない?」
つばめ「……それは」
恭哉「だから俺、絶対つばめともうまくいくと思うんだよね。というか」
   恭哉、つばめに向き合うと。
恭哉「俺がつばめのこと、一生幸せにする」
つばめ「恭哉……」
   つばめ、悲しそうに首を横にふる。
恭哉「……」

〇 龍崎家・座敷
   神妙な表情の千鶴、隼人。
前には目をつむった鷹一。
鷹一「……未来が、変わったぞ」
   千鶴ら、驚いた表情。
鷹一、がっと目を開けると、
鷹一「つばめが、心を決めた」
隼人「つばめが、結婚を受け入れたということですか」
   鷹一、頷く。
千鶴「……あの子が……」
   信じられない、という表情。
鷹一「力を持たぬ者に力を与えるなど……ふざけた決断をするような子ではなかったということだ。さすが我が後継者」
   と、満足げな鷹一。
千鶴、不安そうな顔。
隼人「……総代。もう少し時間をいただけませんか。私にはつばめが、本心で選んだ決断のように思えないのです」
鷹一「本心でないなら、それはそれでいいではないか。気が変わらぬうちに、結婚の儀を行えばよい」
隼人「しかし……」
鷹一「家のために決断したというなら、決意が揺らがぬよう導いてやるのもわしらの役目だと思わんか」
隼人「……」
鷹一「一時の感情ではなく、本当の幸せを考えたら、どうするべきかはおのずと見えてくる」
隼人「……」
   ためらいを見せる隼人、千鶴を見ながら、
鷹一「ならば、善は急げ、だ。週末、結婚の儀を行うぞ」
千鶴「週末⁉ そんなに早く」
鷹一「未来がまた変わらぬうちに、形だけ整えてしまえば良い!」
   決意のかたそうな鷹一を見て、不安そうな千鶴と隼人。

〇 浜辺(日変わり)
   海を見つめるつばめ。
つばめ(結婚……)

   ×  ×  ×
〇 (フラッシュ)
鷹一「龍崎の名をかけて、お前を潰す」
   ×  ×  ×

つばめ(どうして、そうなったの)
   (私のせい? 私の力が強いから?)
   (私はただ、好きなだけなのに)
   つばめ、砂をぐっとつかむと、海に向かって投げる。
つばめ「ただ、好きなだけだったのに……」

〇 美容院
   カットの練習をする理輝。
理輝「……」

〇 道
   恭哉が歩いていると、未央が待ち伏せしている。
恭哉「お。未央ちゃん、俺が学校やめてさみしくなっちゃった?」
未央「軽口はやめて。待ってたの。つばめちゃんがどうしてるか、聞きたくて」
恭哉「相変わらず冷たいねー。だからあいつとも幼なじみから発展しないんじゃないの?」
未央「……! あなたには関係ないでしょ!」
恭哉「怖。せっかくライバルをなくしてあげたのに、俺にはもっと感謝してほしいんだけど?」
未央「やっぱり学校をやめたのは、あなたも関係してるってこと? ねえ、一体何があったの? どうして突然」
   未央、恭哉にせまる。
恭哉。未央の顔の前に手を出して
恭哉「ストップ。それ以上近づいたらハラスメントね」
未央「何がハラスメントよ!」
恭哉「んー、未来見せハラスメント? 俺、別に未央ちゃんの未来に興味ないし」
未央「何を言ってるの? ふざけないで」
恭哉「だろうね。ま、要はそういうことなんだよ」
未央「……?」
恭哉「未央ちゃんやあいつと、俺やつばめの住む世界は違うってこと」
未央「何それ……」
恭哉「例えば何度も転生してる人と、現世に住んでる人とじゃ、価値観も違うし、見てる物も違うでしょ? そういう感じ」
未央「は……?」
恭哉「もしくは……。人魚と人間とか?」
未央「意味がわからない」
恭哉「とにかく。俺とつばめが未央ちゃんたちと生きていくのは大変だってことだよ」
未央「……私、理系人間だからそういうたとえ話は全く理解できないんだけど」
恭哉「?」
未央「でも、転生してたって、人魚だったって、心は同じなんじゃないの?」
恭哉「え?」
未央「価値観とか常識の違いって、なんていうか後付けだけの話で、人が人を大事にする基本的な構造ってのは同じな気がするんだけど」
恭哉「……」
未央「龍崎くんが何を言いたいのか全く分からないけど、転生した人は幸せになるために転生してるし、人魚は人間と関わるようにお話が作られてる。そういう風に考えていけば、理論上、住む世界が違う者同士のほうが惹かれ合うというか、関係性が強くなる気がする」
恭哉「……未央ちゃん、なかなか鋭いとこついてくるねー」
未央「話は全く見えてないけどね」
恭哉「……ねえ、人魚姫って最後どうなるんだっけ」
未央「確か……人魚に戻るには王子様をナイフで刺さなくちゃいけないけど、人魚姫はそれができずに死んじゃう、とかじゃなかった?」
恭哉「なるほどね……つばめは王子を刺せなかったってことか」
未央「ねえ、さっきからずっと、何の話をしてるの?」
   恭哉、未央の肩近くをエアで叩き、
恭哉「ありがと。参考になった」
   恭哉、その場を去りかけ、ふと、数歩行ったところで振り向く。
恭哉「ちなみにさ。未央ちゃんは、あいつに好きな人がいるってわかって、どう思ってる? 奪いたいって思うの?」
   未央、少し考えて
未央「そう思ったこともある。でも……見ててわかるもん。私じゃないんだなって。この人をこんな笑顔にできるのは自分じゃないってわかってて、これ以上奪いたいなんて思えないよ」
恭哉「……悔しいけど、同感だわ」
   恭哉、未央に手を振ってその場を去る。

〇 龍崎家・座敷(夜)(日変わり)
   鷹一、千鶴、隼人など、ずらりと龍崎家の人が並んでいる。
   その真ん中に座る、つばめと恭哉。
鷹一「……それでは龍崎つばめ、龍崎恭哉の結婚の儀を執り行う。両名、前へ」
   つばめ、恭哉が少し前に出る。
鷹一「この儀をもって、2名は夫婦となる」
   一同が、はっ、と頭を下げる。
   鷹一、呪文のようなものを唱え始める。
   恭哉は隣に座るつばめに、小声で
恭哉「俺まだ16なんだけど、結婚できなくね?」
つばめ「とりあえず儀式だけなんだからいいんだって」
恭哉「じゃあ2年後にすればいいんじゃねえの?」
つばめ「あたしの力を恭哉に分け与える形になるから、恭哉の力も安定するらしい」
   恭哉、へえ~とうなずく。
   鷹一の声が続く中、ちらちらと襖のほうを見ている恭哉。
つばめ「どうしたの」
恭哉「いや? ちょっと……」
   いぶかしげな表情をするつばめ。
   恭哉、何かが気になっている様子。
   そのうちに鷹一の呪文が終わり。
鷹一「妻・龍崎つばめと、夫・龍崎恭哉の力を、分け合う。それをもって、結婚の儀とする」
   周囲の人々がごくっと息をのむ。
   つばめ、緊張のおももち。
恭哉「……」
   鷹一、恭哉とつばめの間にある盃に、とっくりから水を入れる。
鷹一「つばめ、これを」
つばめ「……」
   神妙なおももちで盃を手にするつばめ。
つばめ(これに口をつければ、私は……)

   ×  ×  ×
〇 (インサート)
   理輝の笑顔。
   ×  ×  ×

つばめ(もう忘れるって決めたんだから……!)
   つばめ、目をぎゅっとつむって、水に口をつける。
つばめ「……」
   鷹一、その様子を確認し、にやりと笑う。
鷹一「では恭哉。これを飲むのだ」
   恭哉、盃を持つ。
恭哉「……」
鷹一「どうした?」
恭哉「……ええっと、そろそろなんだけどなー」
鷹一「? 何を言ってる。早く飲め」
   いぶかしげに恭哉を見るつばめ。
   恭哉、もう待てないという風に、
恭哉「いいから、早く来い!」
   その途端、襖ががらっと開き、息をきらした理輝が現れる。
理輝「つばめ!」
つばめ「……理輝⁉」
   つばめ、驚いて立ち上がる。ざわめく人々。
恭哉「おせーわ」
   恭哉、急いで盃を理輝に渡す。
恭哉「これを、早く」
   理輝、うなずく。
鷹一「おい、お前、まさか。何をする。やめろ」
   理輝、盃を口に近づける。
つばめ「待って理輝、それを飲んだら理輝が……!」
   理輝、つばめを見て微笑み、そのまま口をつけ。
鷹一「やめろーっ」
つばめ「だめ……!」
   ごくりと飲みこむ理輝。
   その瞬間、理輝のまわりにぼやりとした光が現れ、きらめく。
鷹一「お前……」
   理輝、緊張の面持ちで自分の体を見る。
鷹一「力を、得たのか……(と、その場に崩れ落ちる)」
   理輝、つばめを見て微笑む。
理輝「つばめ」
つばめ「何でこんなこと……」
理輝「つばめと一緒に居たいから」
つばめ「……」
理輝「言っただろ。ずっと一緒に歩きたいって」
つばめ「理輝……」
   見つめ合うつばめと理輝。恭哉が2人の肩を叩き、
恭哉「盛り上がってるとこ悪いんですけどー、早く逃げたほうがいいかと思うぜ?」
   その瞬間、鷹一が立ち上がり、
鷹一「不法侵入だ、そいつを捕まえろ!」
   参列者らが慌てて立ち上がる。
   恭哉、つばめの背中を押し
恭哉「ここは俺がなんとかするから、つばめたちは2人で逃げろ」
つばめ「でも……」
恭哉「いいから! 理輝、連れていけ!」
   理輝、恭哉に向かってうなずくと、つばめの手を取る。
つばめ「!」
   そのまま家を飛び出すつばめと理輝。
恭哉「……やっと手え、つなげたじゃん」
   つばめたちの背中を見て笑う恭哉。

〇 海(夜)
   手をつなぎ、走るつばめと理輝。
   後ろを振り返りながら、
理輝「ここまで来れば大丈夫だろ」
   と、その場に座り込む2人。
つばめ「何で……」
理輝「ん?」
つばめ「馬鹿じゃないの⁉ 何でこんなこと」
理輝「……」
つばめ「力を持ったら……もう美容師にはなれないんだよ……?」
理輝「……つばめ」
   理輝、つばめを抱き寄せる。
理輝「力を持ったから、つばめに触れられんだよ」
つばめ「……」
理輝「もうつばめを1人にしないって決めたし。だから望んで、こうした。後悔なんかしない」
つばめ「そんな……自分の夢を壊してまで」
理輝「つばめ」
   理輝、つばめのあごに触れ、顔を上げさせる。
理輝「それより今は」
   理輝、つばめの頬に触れ、
理輝「つばめにもっと、触れたい」
   理輝、つばめにキスをする。