〇 (回想)公園
   T:十年前
つばめ(私に力が現れたのは、今から約十年くらい前。あたしが5歳だった時)
   近所の子どもたちに混ざり、遊んでいるつばめ(5)。
児童A「ねー、かくれんぼしよー!」
   その声を聞き、つばめも駆け寄る。
子どもら「じゃんけん、ぽん!」
   つばめが負け、鬼になる。
児童A「じゃ、つばめちゃん鬼ね」
   Aがつばめの肩をトントン、と叩く。
   その瞬間、つばめのまわりの空気が揺れる。
つばめ「……。おっけー!」
   つばめ、10秒数えると、走り出す。
   すぐに児童たちを見つけるつばめ。
児童A「何でつばめちゃんこんなに見つけるの早いの⁉」
つばめ「だって私、見えるんだもん!」
   その声を聞き、周囲の大人たちが怪訝そうな表情になる。
つばめ「みんながどうするのか見えるんだー! ほら、ここ触って? (友達が触って)うん、あのね、あなた次、あそこに隠れようと思ってたでしょ?」
   大人たち、自分の子どもを呼び寄せて。
   つばめの方を見ながらコソコソ言い、慌てて公園をあとにする。
つばめ「え、みんなどこ行くの?」
   追いかけるが、一斉に公園から去って行く。
つばめ「え? え、何で?」
   その時、Aが「気持ち悪っ」と口に出す。
つばめ「え……?」
   たちまち、公園がつばめだけになる。
   そこへ慌てて千鶴(33)が駆け寄ってきて
千鶴「つばめ……力が出たのね」
つばめ「?」
千鶴「これからたくさん、大事な話をするからね」
   千鶴、複雑な表情でつばめを抱っこして、歩いて行く。
つばめ(この時はまだ、どうして友達の居場所がわかったのか、なぜ大人たちが自分を怖がったのか。わからなかった)

〇 (回想)龍崎家・庭
   庭で1人で遊んでいるつばめ(5)。
   縁側に座り、その様子を鷹一(57)が見ている。
   傍らで不安そうな顔をしている隼人(35)、千鶴(33)。
鷹一「つばめ、目を閉じて、風を感じてみろ」
つばめ「風?」
鷹一「いいから、頭の中を真っ白に」
つばめ「……?」
   首をかしげながら、言われた通りにやってみるつばめ。
   すると、すっと風が止まり、光がゆらめく。
鷹一「今、見えたものは?」
つばめ「雨が降ってた。夜だったよ。真っ暗」
隼人「雨? こんなに晴れてるのに?」
鷹一「……今日の夜の天気は?」
   おもわず声を出しそうになる千鶴。
千鶴「……! 一時的に雨が降るそうです」
   鷹一、ふっと笑って。
鷹一「もっと集中しろ。もっと、何かを知りたいと願え」
つばめ「……」
   つばめ、目を閉じ、深呼吸する。
   さっきよりも空気がピリッと固まる。
鷹一「……素晴らしい」
   つばめ、目を開けると
つばめ「私、小学生のお姉さんになって、ランドセル背負って学校行ってた!」
鷹一「千鶴さん、ランドセルはもう購入したのか?」
千鶴「は、はい。この子にはまだ何も言ってませんが」
鷹一「つばめ、ランドセルの色は何色だった?」
つばめ「茶色だった。つばめ水色が良かったんだけどなー」
千鶴「ウソ……、そうです。茶色です。大人っぽいかなと思って……」
   鷹一がふふっと笑う。
   隼人、頭をかかえる。
隼人「まさかうちの子が……。こんな力を持っているとは……何にも触れていないのに、こんな未来を」
鷹一「選ばれし者だ」
隼人「……」
鷹一「古来より、戦や大事な局面で必要とされてきた力だ。私以来、持つ者は現れていなかったが……数十年ぶりに、この力を持つ者が出るとはな」
隼人「……この子は、これからどうすればいいのでしょうか」
鷹一「時は変わったとはいえ、この国の未来にとって、我々の力は求められ続けている。この子の力を最大限に生かす必要がある」
隼人「それはわかりますが……」
鷹一「私の跡を継いでもらう」
隼人「!」
鷹一「この子は、望めばどんな先の未来も見られる力を持っている。大事に育てろ。いいな。この子に何かあった時は、私が黙っていないぞ」
隼人「……はい」
   ぽかんとしているつばめ。
つばめ(この時から私は、普通の女の子としての生活は望めなくなってしまった。夢も恋も、もたないように。人とはなるべく関わらないように。そうして生きてきた、のに)

〇 (フラッシュ)
   海沿いの道を、理輝のバッグをつかんで歩くつばめ。
   保健室で、手を触れずにフォークダンスを踊る様子。
   遊園地で笑い合うつばめと理輝。
つばめ(理輝が私を連れ出してくれた。心に触れてくれた。だから)
                     (回想終わり)

〇 龍崎家・つばめの部屋(夜)
   ベッドに突っ伏して泣いているつばめ。
つばめ「……手放したくない……」
   その時、ノックの音が聞こえ、
隼人(声)「つばめ。さっきは悪かった」
つばめ「……。入ってこないで」

〇 同・廊下(つばめの部屋の前)
   深刻な顔でつばめの部屋の前に立つ隼人。
   言いづらそうに、深呼吸する。
隼人「理輝くんは、いい奴だと思う。だが……」

〇 同・つばめの部屋
   涙目でドアを見つめるつばめ。
隼人(声)「彼とは、見ているものが違い過ぎる」
つばめ「……!」
   つばめ、手もとにあったクッションをドアに向かって投げる。
つばめ「違うからって何⁉ そんなの私には関係ないじゃない!」

(以下、カットバック)
隼人「つばめは龍崎の家に生まれた身だ。それを無視して生きることはできない」
つばめ「どうして⁉」
隼人「この国に龍崎の力は必要だ。お前もそれはよく知っているだろう」
つばめ「だけどそんなの、もう古いよ! 令和だよ? そんなの必要ないでしょ!」
隼人「お前が知らないだけで、総代は今も様々な災厄から国を守ってくださっている。龍崎の力がなければ、この国は衰える」
つばめ「そんなの知らないよ。この力に頼るほうが悪い」
隼人「警察、医療、報道、政治、経済……龍崎家の人間は長年、この力を生かすよう生きてきた」
つばめ「……」
隼人「持つ者は、世のために力を使うべきだ。しかもお前は特に強い力を持っている。つばめの力で、いろいろなことが救われるはずだ。逆に言うと我々は、お前の力が減退することを防ぐ義務がある」
つばめ「わかる。わかるけど……恋愛はまた別でしょ⁉ 私はちゃんとするから……認めないとか、別の人と結婚とか」
   苦い顔をする隼人。
つばめ「私だって好きでこんな力、もったわけじゃない!」
隼人「つばめ……」

〇 同・つばめの部屋
   つばめ、ドアのほうに歩いて行き、ドアを開ける。
   隼人が苦しげな表情でつばめを見ている。
つばめ「どうすれば一緒に居られるの、私たち」
隼人「……」
つばめ「何も方法はないの……?」
隼人「あることは、ある。が……それを使った人を私は知らない。うまくいくのかもわからない」
つばめ「……どうして。その方法って」
隼人「つばめの強力な力を使い、相手に――龍崎の力を分け与える」
つばめ「え?」
隼人「理輝くんを、“触れると見える体質”に変えるということだ」
つばめ「……!」

〇 美容室(夜)
   トルソーを使って、一心不乱にヘアカットの練習をする理輝。

   ×  ×  ×
〇 (フラッシュ)
鷹一「お前に恋愛など認めん」
鷹一「お前は恭哉と結婚するのだ」
   ×  ×  ×

   理輝、苦悶の表情。
理輝(どうして)
  (望まない力のために振り回されて)
  (つばめの気持ちは?)
  (俺は、どうしてあげんのが正解……?)
   ふと、美容室の扉が開く。
   理輝、振り返って、
理輝「すみません、本日の営業は……」
   と、入ってきたのは未央。
未央「理輝」
理輝「……未央」
   未央、理輝が元気がないことに気付く。
未央「どうしたの。今日、つばめちゃんと一緒だったんじゃなかったの?」
理輝「……そうなんだけど」
未央「?」
理輝「いや、何でもない」
未央「喧嘩でもした?」
理輝「そういうんじゃない」
未央「……ならいいけど。なんか、傷ついた顔、してる」
理輝「……別に。ただ……好きで、付き合えて。それで終わりじゃないんだなって」
未央「……」
理輝「……気付かされた感じ」
未央「付き合うってさ。別の道から歩いて来て、同じ道を未来めざして歩いて行くから。むしろここがらがスタートだもんね」
理輝「ここから……?」
未央「これまでは好きって気持ちだけで、お互いのほうだけ向き合ってきたけど、これからは相手と横に並んで歩かなくちゃいけないもんね」
理輝「……」
未央「何があったかは知らないけどさ。悩んだら、また、つばめちゃんに向き合えばいいんじゃない?」
理輝「……」
未央「そしたら、つばめちゃんの歩きたい方向がどこなのか、そこに何があるのか、きっと見えるよ」
   はっとなる理輝。
理輝(つばめが歩きたい方向……)
   未央、理輝の背中を叩いて、
未央「だから、がんばって。私はそれしか言えないけど」
理輝「……未央」
   未央、理輝をからかうように
未央「無理ならまたこの道に戻っておいでよ。私のほうを向いてはくれないと思うけど、一緒に並んで歩くことはできるよ」
理輝「え……?」
未央「なんてね」
   と、冗談めかす未央。

〇 同・店の外(夜)
   店内にいる理輝と未央の仲良さそうな様子を、隠れて見ているつばめ。切ない表情で。
つばめ「……」

〇 東高校・外観(朝)(日変わり)
   生徒たちが登校してくる。

〇 同・屋上(朝)
   柵にもたれつばめを待つ理輝。
   そこへ、つばめがやってくる。
理輝「つばめ。ごめん朝から」
つばめ「ううん。私も話したいことがあって」
理輝「……昨日は悪かった。俺、何も言えなくて」
つばめ「ううん。そもそも悪いのは、うちだし」
理輝「つばめは悪くねえよ。俺が、何もわかってなかったから。俺が、好きだって気持ちがあれば何でもできるって思ってたから」
つばめ「……」
理輝「俺、つばめと同じ方向を見てるつもりだったのに、実際は、つばめに俺と同じものを見せようとしてただけだった。つばめが何を見てるのか、何も考えてなかった」
つばめ「……そんなこと……」
理輝「つばめが見てる方向を、俺も一緒に見たいと思ってる。だからつばめのこと、もっとちゃんと教えてほしい」
つばめ「……」
理輝「俺、つばめと一緒に歩きてんだ」
   真剣な表情の理輝。
   つばめ、その理輝から目をそらす。
つばめ「今、そんなこと言わないでよ」
理輝「つばめ……?」
つばめ「……ごめん、理輝」
理輝「え……?」
   そのとき、ドアが開いて恭哉が屋上に入ってくる。
   恭哉、つばめの肩を抱いて。
恭哉「無理して同じ方向見るからしんどいんだって」
理輝「……⁉」
恭哉「初めから同じもの見てる同士なら、こんな苦しい気持ちにならなくて済む。……つばめには俺、お前には未央ちゃん」
   恭哉、つばめにベタベタと触れる。
恭哉「俺たち、結婚することにしたから」
理輝「何だよそれ……」
   つばめ、目をそらして黙っている。
理輝「どういうことだよ、つばめ」
つばめ「……」
理輝「俺が自分のことしか考えてないなら、謝る。つばめのこと最優先で動く」
   無視するつばめ。
理輝「だから何も言わずに勝手に決めんなよ!」
   つばめ、つらそうな表情。
恭哉、理輝の口の前に手のひらをおいて。
恭哉「わかってないなー。こういうこと言えるのも、お前が自分のことしか考えてないからなんだよ」
理輝「え……?」
恭哉「『つばめを最優先にする』とか言われて、つばめがどういう気持ちになるか、お前わかんない?」
理輝「……」
恭哉「つばめはそんなの望んでねえの」
   つばめ、深呼吸して。
つばめ「理輝……ごめん、全部なかったことにして」
理輝「え……」
つばめ「付き合いたいって言ったのも、私が好きって言ったことも、全部忘れてほしい」
理輝「何だよそれ……」
つばめ「私、恭哉と結婚する」
理輝「は……? 待てよ、どういうことだよ!」
   つばめ、理輝を見つめて。
つばめ「……あの日、海で。理輝と出会わなければよかった」
   つばめ、理輝に背を向け、屋上をあとにしようとする。
理輝「つばめ! ちょっと待てよ!」
   理輝、つばめの腕をつかもうとするが、
恭哉「ダメ。触れないで」
   恭哉、理輝に見せつけるようにつばめと手をつなぐと、指をからませる。
恭哉「こういうこと、理輝とはできないけど、俺ならできるから。手をつなぐことも、キスも、抱くことも」
理輝「……!」
   つばめ、恭哉と手をつないだまま階段を降りて行く。
理輝「つばめ! おい、つばめ!」
   理輝、つばめの後ろ姿に向かって名前を呼び続ける。