○ 街
駅の広場で立っている理輝。
スマホを見てぼーっとしている様子。
その様子を少し離れた場所から見ているつばめ。
つばめ(絶対私のほうが先だと思ったのに……!)
つばめ、駅に掛かっている時計を見る。
時計の針は、11時45分。
つばめ(初デート……)
つばめ、自分の服装を見直す。
それからスマホをミラーにして髪を整える。
つばめ(絶対失敗しないようにしないと)
つばめ、理輝をのぞき込むと。
理輝が髪を気にして触っているのが見える。
つばめ(……もしかして理輝も緊張してる?)
理輝、時折服のすそを触ったりしている。
つばめの頬がほころぶ。
つばめ、理輝のところに走って行く。
つばめ「理輝!」
つばめを見てほっとしたような顔の理輝。
理輝、つばめに服の裾を握らせる。
照れながら並んで歩いて行く2人。
× × ×
駅舎の柱から、怪しい男が、理輝とつばめの様子を隠れて見ている。
つばめたちが歩くのに合わせ、その男も後をつけていく。
○ 遊園地
理輝が入場券をつばめに渡す。
理輝「無理せずに、できそうなやつだけにしよ」
つばめ「……いいの?」
理輝「ん。怖かったら言えよ」
つばめ「ありがと。行こ!」
つばめ、理輝の服の裾をつかみ、引っ張って行く。
× × ×
ジェットコースターに乗り、騒ぐ理輝とつばめ。
つばめ、両手を挙げて楽しんでいるが、理輝はその手に当たらないよう、反対側の手を離すだけ。
× × ×
コーヒーカップに乗る2人。
つばめに触れないよう、隣同士ではなく少し体を離して座る理輝。回転も強くせず、ゆるっとしている。
× × ×
シューティングゲームで盛り上がる理輝とつばめ。
おもわずハイタッチしそうになり、慌てて手を引っ込める理輝。
つばめ「……」
× × ×
お化け屋敷の前でたたずむ2人。
つばめ「……」
理輝「ここはやめとこーぜ」
つばめ「……でも、せっかく来たのに」
理輝「無理っしょ、触れそうじゃね?」
つばめ「……だね」
× × ×
観覧車に乗っている2人。
向き合い、脚が触れないようにななめに座っている。
理輝「今日、楽しかった?」
つばめ「うん」
理輝「本当?」
つばめ「え?」
理輝「なんか……気を使わせたかなって」
つばめ「……それはむしろ私のほうだよ。全力で楽しめなかったでしょ? 悪いなあって思って」
理輝「……」
つばめ「今日こうして遊びに来れて、楽しいって気持ちもあるけど、やっぱり何か……相手が私じゃなかったらもっと楽しめたんだろうなって思っちゃって」
理輝「……」
つばめ「ごめんね」
理輝、ギロッとつばめをにらむと、
理輝「ちげーわ! 全然違う!」
つばめ「⁉」
理輝「俺が気を使ってたように見えたなら、謝るわ。悪かった」
つばめ「そういうことじゃ」
理輝「でも俺気を使ってたわけじゃねえしマジで‼」
つばめ「だって……ジェットコースターでも手を離さないし、コーヒーカップも全然ぐるぐるしないし。お化け屋敷も入らないし、今だって」
理輝「ああもう、言わせんの⁉ これ言ったほうがいいやつ⁉」
つばめ「え?」
理輝「……ったく」
理輝、席を移動し、つばめの隣にドカッと座る。
理輝「ジェットコースターやコーヒーカップでおとなしく座ってたのは、俺が単にああいうの苦手だっただけ」
つばめ「……え?」
理輝「俺、ああいう揺れとかぐるぐるすんの、苦手なんだよ。心臓ぐわってなる感じが」
つばめ「……嘘」
理輝「嘘じゃねーよ。悪かったな、チキンで。ついでに言うと俺、お化け屋敷もマジで無理だからな!」
つばめ「お化け屋敷も⁉」
理輝「わざわざ金払って怖ぇ思いするとかありえねえ。しかも俺、絶対つばめに助け求めそうだし。そうなったらマジ男としてカッコ悪すぎだろ」
つばめ「(笑いをこらえながら)……ちょっと、ギャップ」
理輝「……うるせえな」
つばめ「(笑いながら)じゃ観覧車も、もしかして高所恐怖症とかー?」
理輝「……今離れて座ってたのは」
理輝、唇と唇に触れる直前まで接近する。そしてつばめの目を見つめ
理輝「こういうことしたくなるから」
つばめ「……!」
真っ赤になるつばめ。
理輝、すっと離れて顔をそむける。
理輝「ああもう、マジ可愛いわお前」
つばめ「……」
つばめ、自分の横に置かれた理輝の手を見つめると。
理輝の手の爪に自分の爪を重ね合わせ、こすり合わせる。
理輝「~~~!」
理輝の顔がさらに赤くなる。
つばめ「……ありがと」
理輝「え?」
つばめ「苦手なのに、連れてきてくれて」
理輝「……」
つばめ「こういうとこ、来たことなかったから。うれしかった。ありがと」
つばめ、全ての指の爪を、爪同士でノックしていく。
理輝、反対の手でその手を握りたい衝動にかられるが、ぐっと我慢し、つばめの髪を撫で、髪にキスをする。
理輝「いつでも来れるから。また来ようぜ」
つばめ「ん……」
触れないギリギリの距離まで近づく2人。
○ 同・外(夕)
2人で1つのくまのぬいぐるみを持つ理輝とつばめ。2人の間からくまが垂れ下がっている。
つばめ「あー、楽しかった!」
理輝「俺も」
つばめ、2人の間にいるくまを見つめ
つばめ(手、つないでるみたい)
幸せそうに微笑むつばめ。
楽しそうな2人を、男が背後から見ている。
理輝、視線を感じ、ふっと振り向く。
つばめ「理輝?」
理輝「いや、朝からずっと……誰かに見られているような」
つばめ「え……」
つばめも同じ方向を見つめる。
つばめ「ちょっと……待ってね」
つばめ、目を閉じてすっと神経を集中させる。
空気がピリッと固まるような一瞬のあと。
すっと、光が揺れる。
理輝「……⁉」
目を閉じたまま、眉をしかめるつばめ。
つばめ「……え?」
目を開け、視線を感じた方向に駆けだしていくつばめ。
驚いたとんぼがすっと飛び立つ。
理輝「つばめ⁉」
そこにいた男が慌てて逃げだす。
つばめ、躊躇なくその男の腕をつかむ。
理輝「おい、触れたら……」
その瞬間。
つばめ「お父さん!」
お父さんと呼ばれた男が、バツが悪そうに振り向く。
理輝「……お父さん⁉」
つばめの父・隼人(45)がギロッと理輝をにらむ。
○ 龍崎家・外観(夜)
○ 同・座敷(夜)
緊張した表情で座る理輝。
隣には、不機嫌顔のつばめ。
向かい合って座っているのが、つばめの母・千鶴と、父・隼人(45)。
目をつむり、表情が見えない隼人。
千鶴「今日は本当にごめんなさいね。この人が勝手なことを」
理輝「いえ……」
つばめ「本当だよ! ありえなくない? 娘が出かけるのについてくるなんて」
隼人、拗ねた顔で目を開けると、
隼人「……娘の心配をして何が悪い」
つばめ「信用してないだけでしょ」
理輝「つばめ、言いすぎだって」
千鶴が場の雰囲気をなごませるように
千鶴「今日は付き合って初めてのデート?」
理輝「そうです」
千鶴「そう。楽しかった?」
理輝「はい、とても」
隼人、ぼそっと、
隼人「お化け屋敷もジェットコースターも苦手なヘタレ野郎がよく言うよ」
つばめ「お父さん!」
理輝、気まずそうにしている。
理輝「あの、挨拶もせずにすみませんでした。特につばめさんは、カラダのこともあるのに」
千鶴「理輝くんはもう、全部ご存知?」
理輝「詳しいことは聞いていませんが、触れてはいけないということは聞いています」
千鶴「そう。それを承知で、つばめと付き合うと決めたの?」
理輝「はい」
千鶴「……そう」
千鶴、つばめを見る。
つばめ、小さくうなずく。
千鶴「聞いてます? あなた」
隼人、目を閉じたままうなずく。
千鶴「どう思います?」
隼人「(ちらっと理輝を見て)……楽しいんだろう、今は」
理輝「……」
隼人「そのうち、すぐ別れたいと言い出すに決まってる」
つばめが表情をぴくっと揺らす。
隼人「美容師か何か知らんが、こんなチャラチャラした奴につばめと付き合うのは無理だ」
つばめ「お父さん!」
隼人、理輝をにらむ。
理輝「……」
重い空気。
つばめ、頭をかかえる。
理輝「……俺は」
理輝、深呼吸をして
理輝「つばめのことが好きです」
隼人「……」
理輝「触れられないっていうけど、そんなの必要ないっつうか、それくらい、好きです」
隼人「……」
理輝「たぶんそれだけじゃ我慢できない日もくると思うし、何なら今もうすでにキツイなって思うこともあるんですけど」
隼人「は⁉ お前……!」
理輝、隼人の目を見て。
理輝「でもそれでも、別の未来を生きるのは無理だって思ったんです」
千鶴「別の未来?」
理輝「しんどいこともあると思いますけど、一緒に歩けないよりは全然マシというか。つばめのいない人生に比べたら、全然耐えられると思うんです」
つばめ「……」
理輝「だから俺、頑張りたいです」
隼人「……こんな、見るからに軽そうな奴が」
つばめ「お父さん。見た目で判断するの?」
つばめ、隼人をぐいっとにらむ。
つばめ「私が見た目や力で判断されるの嫌がってること、わかってくれてると思ってたのに」
隼人「……」
つばめ「お父さんは人の夢も否定するの?」
隼人「……決めつけてはいない。が、イメージというものもあるだろう」
つばめ「じゃあお父さんは、この力を持つ私も可哀想だってイメージで見てるの? それも結局、私を外側でしか見てないんじゃないの?」
隼人、目をつむって少し考え。
隼人「君が本気だというのは信じるとしても。しかし現実的に付き合っていけるとは思えない」
理輝「努力します。そして努力を、当たり前のことにできるよう努めます」
隼人「……」
隼人、ため息をついて。
隼人「思っていたよりは、マシそうだ」
つばめ「お父さん!」
隼人「だが……総代がなんというか」
つばめ、びくっと肩を揺らす。
理輝「総代というのは……?」
その途端、すっと障子が開き。真っ黒な服に身をつつんだ龍崎鷹一(67)が入ってくる。
千鶴「おじさま!」
隼人「総代! なぜここに……!」
鷹一、隼人の質問には答えず、じろっと理輝を見る。
そして。
鷹一「つばめ。お前に恋愛など認めん」
理輝「⁉」
鷹一「お前は恭哉と結婚するのだ」
つばめ「……え⁉」
鷹一「昔からそう決まっている」
隼人「待ってください総代、それは……誰とも縁がなかったら、という話ではなかったのですか!」
鷹一「つばめの力の大きさと、龍崎の力の低下を考えたら、そんな悠長なことも言ってられないだろう」
千鶴「おじさま、お待ちください。この子はまだ16で、恋愛もこれからの時期で」
鷹一「これからで良かったじゃないか。相手がそんな無力な一般人なら、適当にあそんで早く別れてしまえ」
つばめ「……何を言ってるの……?」
鷹一「お前は龍崎の家で数十年に一度の力を持つ人間。恭哉と子をつくり、この力を守る必要がある」
隼人「総代! 話を聞いて下さい!」
鷹一、ぎろっとにらむと、すっときびすを返す。
鷹一「つばめ、自分の力の強さを忘れるな。絶対にその男に触れてはならぬぞ」
つばめ「そんな」
鷹一「もし守れぬときは……分かってるな?」
つばめ「……?」
鷹一、理輝をにらんで。
鷹一「龍崎の名をかけて、お前を潰す」
つばめ「!」
鷹一、すっと部屋を出て行く。
呆然とするつばめ。
千鶴、つばめを抱き寄せて。
千鶴「大丈夫。つばめをこの家の犠牲にはしないから」
理輝「……」
驚きで言葉が出ない理輝。
つばめ(触れたい)
つばめ、理輝を見つめる。
つばめ(こういう時こそ、ぎゅって)
(どうして何も言ってくれないの……?)