「アメリア、何をしているの? 今凄い音が……」
突然聞こえたライオネルの声。途端に意識が現実に引き戻される。
「アメリア! どうしたの、何があったの⁉」
彼が駆け寄る足音が近づいてくる。けれど私は、顔を上げられない。
「――アメリア? ……その手!」
その声は焦っていた。私の右手から止まることなく流れゆく血液――それが部屋を、私の髪を、服を、汚していく光景に。
あぁ、私はいったい何をしているのだろう。人様の家の窓を割り、部屋を汚し、こんな醜い姿を晒して……。
けれど、もう自分ではどうにもならないのだ。身体が震えて言うことを聞かない。それにこんな顔、絶対に見せられない。
けれどライオネルは、問答無用で私の右腕を掴んで引き寄せる。
「傷を見せて! あぁ……結構深いね。痛かっただろう? 早く止血しないと」
彼は私の顔を見るより先に傷の具合を観察し、冷静な声でそう言った。
その声音に、涙が止まる。あぁ、そうだ。彼は騎士の家の者なのだ。
彼は私の泣きはらした顔など気にする素振りもなく、睨むように私を見据える。
「どうしてすぐに人を呼ばないの? ほら、右手は心臓より高い位置に」
彼は胸ポケットからハンカチを取り出すと、私の右手にあてがい、腕を持ち上げる。
「それに、念のため横になった方がいい。顔色がよくないよ」
「…………」
顔色がよくない……か。それは別にこの傷のせいではない。
でも、勘違いしてもらえる方が、逆に都合がいいというもの。