――ああ、なんて顔をしているの。これじゃあまるで昔の自分そのものじゃない。あの頃の弱い私みたいじゃない。

 違う、違う違う違う! こんなの私じゃない。私はもうあの頃のような弱い私じゃない!

 私はただ睨みつける。窓枠の向こうの、寂しげに涙を降らせる暗い空を――。

「……っ」

 つう……と、私の右手から滴り落ちる赤い雫。ガラスの破片でぱっくりと裂けた傷から血が流れ出て、それが絨毯(じゅうたん)に赤黒い染みを作っていく。

 けれど今の私には、そんなことを気にする余裕が少しもなかった。

 ――ああ、忌々(いまいま)しい、吐き気がする。なぜ、今の私の姿はあの頃の私そのものなのか。記憶の底に閉じ込めていたはずの、あの頃の姿なのか。――あの日のことはもう二度と、思い出したくないというのに……。

「――っ」

 私の心が泣き叫ぶ。
 思い出さないように。思い出さないように。今すぐ思考を止めてしまいたくなる。

 でもそれは叶わない。私の脳裏に鮮明に蘇るのは、あまりにも辛いあの日の記憶。
 目の前で殺されたエリオットの姿。私の身代わりになって死んだ、彼の悲惨な最期。

「――ッ‼」

 嫌……嫌よ、思い出したくない、思い出したくない!

 酷い頭痛が私を襲う。それをどうにかしようと両手で頭を抱えても、その痛みが和らぐことはない。あの日の記憶を思い出すのを、やめてはくれない。

『やめて! やめて! その人に触らないで! お願いだから、その人を殺さないで!』

 ああ、やめて――聞きたくない、聞きたくない!

『エリオット! エリオット! お願い返事をして、エリオット……‼』

 髪を振り乱して泣き叫ぶ、少女の悲しみに満ちた声。

「――っ」

 嫌だ、嫌……ッ。もうやめて、これ以上は、私の心が壊れてしまう……!

 私はその場にうずくまり、自身の身体を抱き締める。過去の記憶に恐怖しながら、震える身体を精一杯……。――すると、そんなときだった。