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その後ようやく姿を現したアーサーに、ウィリアムは当然のごとく厳しい目を向けた。
「遅い。一時間半の遅刻だぞ」
「すまない……その、寝坊した」
「寝坊だと?」
「……あ、ああ」
アーサーはよほど急いで来たのだろう。普段走るようなことはない彼が、今日は酷く息を切らせている。額には汗が滲み、肩は大きく上下していた。
つまり、意図的にウィリアムを待たせたわけではない――ということだろう。……しかし。
正直ウィリアムにはにわかに信じられなかった。なぜなら、少なくとも寄宿学校時代には、アーサーが寝坊したことなど一度だってなかったからだ。
だから、遅刻の理由が寝坊だということに、強い違和感を覚えざるを得なかった。
「本当は、何かあったんじゃないのか?」
アーサーは確かに王子らしからぬ人物だ。品行方正とは程遠いし、人としてどうかと思う部分もある。――が、それでもやはり王子である。立場上、簡単に人に謝罪することは許されない。そういう教育を受け、彼自身もそれを理解している。
だから余程のことでない限り、アーサーは決して謝らないのだ。
そしてそれは、そのような状況に自分の身を置かない――ということと同義である。
それがまさか寝坊などと、正直にも程がある。だからウィリアムは、何か別の理由があったのではないかと考えたのだ。
けれどアーサーは、ウィリアムの言葉を躊躇なく否定する。
「いや、何もない。強いて言えば……悪夢を見た」
「悪夢?」
アーサーは頷く。その表情は酷く強張っていて、余程悪い夢だったことが想像できた。