「……変わらんな」

 本当に忌まわしい場所だ。吐き気をもよおすほどに。

 けれど俺はここから逃げ出すことも――どうすることもできない。だってここは、紛れもない自身の夢の中なのだから。覚めたくても叶わない、それは深い深い、夢……。

 俺は諦めて、悲しげに広がる荒れた庭へと視線を移した。
 そして考える。再び自分がここを訪れた理由を。

 そう、俺は無意識のうちに自分で望んだのだ。再びここを訪れることを。――だが、なぜ。

 俺はしばらくの間考えていた。けれど、回廊の先に何かの気配を感じ、そちらへと意識を向ける。するとそこにいたのは――。

「……子供?」

 それは少年だった。まだ年端もいかない……だが、その姿は紛れもなく。

 そいつは俺のすぐ側まで来ると、友人であるかのように軽々しい口調で話し出す。

「酷い庭でしょ」

 自嘲気味なそいつの笑顔が、妙に鼻につく。荒れ果てた庭を流し見る――その瞳も。

「ここは僕の夢。だからこの庭は僕の荒んだ心を映し出しているんだよ。笑っちゃうでしょ」

 言葉とは裏腹に、少しも笑っていないそいつの瞳。それは(よど)んだような暗い色……。

「ねぇ、君は誰? どうしてここにいるの?」

 少年の不思議そうな声。それはまだ声変わり前の、幼い少女のような声。
 肩口まである銀色の髪に、妖しく光る赤い右目。それは確かに、紛れもない――。

「俺は……お前だ」

 俺は酷く冷静な頭で、目の前の自分を見つめ返した。

 するとそいつは……過去の俺は――訝しげに眉を寄せる。

「君は……僕なの?」

 聞かれて、頷く。

「でも、君の右目は赤くないよね。なぜ? 目に色を入れてるの?」