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 わたしたちは二人、大木の太い枝に腰かけ、眼下の景色を眺めていた。
 じきに日が暮れる。ひぐらしの鳴き声が、一日の終わりを告げる。

 先ほどまでの暑さが嘘のように、辺りは森のひんやりとした澄んだ空気で満たされていた。森も、草原も――町も、だんだんと(くれない)に染まっていく。

 そんな美しい景色を見下ろしながら、わたしは隣の彼に問いかける。

「ねぇ、どうしてさっき……」
「……ん?」

 彼の顔がわたしの方を向く。彼の瞳も、淡いオレンジ色に染まっていた。

「なんで……ごめんって言ったの?」
「……え? ――あ、あぁ」

 彼は一瞬考えて、恥ずかしそうに俯く。

「だってかっこ悪いだろ? 僕の方から言うべきだったのに」
「――っ」

 先ほどのことを思い出したのか、耳まで赤くする彼。
 それが本当にかわいくて愛しくて、わたしは彼の肩に頭をもたれる。

「本当に……あなたって人は……」

 どこまでも――本当に真面目なんだから。

 そう思ったところで、わたしは先ほどから抱いていた違和感を思い出した。

「ねぇ?」
「どうしたの?」
「あなた、いつの間に背伸びたの? ちょっと前まで、わたしの方が大きかったじゃない」