だけど、あの日璃斗にした行為とその効果は、
 紛れもなくヴァンパイアの能力の表れで。

 改めて自分は、普通の人間ではないことを自ら証明してしまった。


 赤く染まった首筋に噛みついて、吸血行為をするのは昔のヴァンパイア。

 だけど由良は、生き血を欲しない現代を生きるヴァンパイア。
 では何故あの時、璃斗の傷口に噛み付いたのか――。



「……っ」



 ふと気づけば、書類を留めるのを忘れて自分の唇に指を添えていた。
 そして両親の過去話を頭に蘇らせて、また深く考え込む。


 母は生まれた時からヴァンパイアで、父は普通の人間だった。
 そんな二人の初めての出会いを先月聞かされたばかり。


 ある晴れた日、登山中に怪我をして大量出血していた父を、
 通りすがりの母が助けたという。

 その救出方法が、傷口に噛み付くことだった。


 ヴァンパイアの能力として昔から備わっていたもので、
 吸血のために噛みついた傷口から、ダラダラと生き血が流れ出ないように塞がる効果があった。

 つまり、ヴァンパイアが噛み付いた箇所には治癒力が生まれる。