そう言ってステージ脇に設置された階段ではなく、
 その場からひょいとステージを降りた璃斗。

 由良に笑顔を向けて軽く手を振ると、先に教室へ戻っていった。



(璃斗くん、かぁ……)



 物心ついた時から必要以上に他人と仲良くすることを避けてきたため、
 男女関係なく下の名前で呼び合ったことがなかった由良。

 しかし後期生徒会のメンバーとして、璃斗の要望に応えてはみたものの、
 今後“由良ちゃん”と呼ばれるのかと思うと、少し表情が曇る。



(あまり、距離を詰めてこないでほしい……)



 他人と一定の距離を保って接してきた今までの人生。
 だから自分の正体を気にすることもなく、
 関係に悩まず生きてきたけれど。


 仲良くなればなるほど、
 同じくらいの後ろめたさを感じてしまいそうで不安に駆られる。



(だって私は……)



 ヴァンパイアの末裔だから、その正体を隠して人間と関わることになる。
 それは本当に、仲良しと言えるのかも疑問に思うから――。


 偽りの関係に悩むくらいなら、深く関わりを持たないのが一番。

 だから由良は、十六年間特別な存在を作ってこなかった。