自分の無力さを思い知り、由良が眉根を寄せた時。
 抱き抱えられる璃斗が、呼吸を乱しながらも笑顔を浮かべて言った。



「さっき……言いそびれた……」
「え……?」
「俺、本当は……否定したく、なかった」



 そう言って伸ばした血の気を感じない冷たい手のひらが、由良の頬に添えられる。
 目の前の現実を突きつけられて、由良の瞳から一粒の涙が落ちた。

 璃斗自身が今の状況も限界も理解していて、
 それでも何か伝えようと笑顔を浮かべて唇を動かす。

 生きている今しか、伝えられないことがある。
 それを理解する由良は、胸が張り裂けそうな思いでいっぱいだった。



「入学、した時からずっと……由良ちゃんだけ、見てたから」
「え……っ……?」
「だから、そばにいられるだけで……俺は……」



 その途中で、璃斗の手がするりと力無く床に落ちていった。

 微笑んでいた彼の目尻は下がったまま、だけど瞼を開けてくれず。
 唇ももう、動かない。