すると、その空気を一変させたのは、
 柔らかい雰囲気を纏う由良の母。



「パパも挨拶してあげて、由良の数少ないお友達なんだから」
「あ……ああ。こんばんは」
「こ、こんばんは」



 長身で強面なのに、娘の彼氏かもしれない疑念を拭えず小さい声で挨拶する父。

 その胸の内を何となく察していた璃斗は、
 “まだ”そういう関係でないことを匂わせたくて。



「じゃあ由良ちゃん、また来週学校でね」
「うん、ありがとう」
「失礼します」



 由良を自宅前で両親に引き渡した璃斗は、一礼して駅方面へと歩いていった。

 すると、ようやく普段通りの口調で話しはじめる、由良の父。



「彼氏じゃないんだな?」
「ち、違うよ!」
「好きなのか?」
「それも違うって……」



 父の、璃斗に対する疑念はやはりそんなことだろうと思っていた。
 呆れて自宅門を潜った時、母の楽しげな声が背後から聞こえてくる。