白都くんに向かっておもいっきり右手を突き出すと、ものすごい勢いで白都くんが吹っ飛んでいき、離れたところにある大木の幹に叩きつけられた。


「うっ……」


 小さくうめき声をあげ、白都くんがズルズルと木の根元にくずおれる。


 まだだ……まだ体の中のたぎりが全然治まらない。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」


 ぎゅっと胸元を握りしめて、浅い呼吸を繰り返す。


 これじゃダメ。もっと深く深呼吸して、なんとか治めないと……。


 そう思う自分とは別のなにかに突き動かされるかのように、南くんを地面にゆっくりおろすとゆるゆると立ちあがる。

 うつろな目に、莉愛ちゃんが映り込む。


「な、なによ……」


 わたしの尋常じゃない空気を察したのか、じりっと莉愛ちゃんが後ずさりする。

 そんな莉愛ちゃんに向かって一歩足を踏み出そうとしたとき、わたしの左手が、がしっと掴まれた。


「朱里、やめるんだ。もうそれ以上誰も傷つけちゃダメだ。じゃなきゃ、おまえが傷つくことになる」

「はな……して……」


 白都くんと莉愛ちゃんをなんとかしないと、わたしも、南くんも……。


 だけど、掴まれた左手を振りほどこうとしても、南くんは頑として離そうとしない。


「おねがい……離、して」

「もう落ち着けって。大丈夫だからっ……あーもうっ!」


 ぐいっと思わぬ力で手を引かれ、よろめいたわたしのことを、南くんがぎゅっと抱きしめる。