「なにやってんだよ、バカっ!」


 南くんの必死な顔が、ぼんやりとかすんで見える。


「わ……だって、もう一度南くん……失ったりしたら、立ち直れ……なっちゃう……。南くん……無事で、本当に……よかった」


 わたしが無理やり笑ってみせると、「もうしゃべんな」と南くんが泣きそうな顔をする。


「早く、俺の血を飲め。俺の血は、朱里の体を癒すんだろ?」

「や、だ。南くんを、傷つけたくない」


 わたしは、ゆっくりと首を左右に振った。


 ああ、そっか。だからずっと、わたしは東条くんに惹かれていたんだね。

 よかった。浮気なんかじゃなかったんだ。

 わたし、ずっとずっと南くんのことだけが好きだったよ……。


 気を失いかけたわたしの体の中に、あったかいものが流れ込んでくる。

 だんだんと両目の焦点が合っていき、なにが起こっているのかを理解するのに数分もかからなかった。


 わたし、無意識のうちに南くんの首筋に……!


「ご、ごめんなさい!」


 ぱっと離れると、恥ずかしそうに笑う南くんと目が合った。


「へへっ、なに謝ってんだよ。俺が朱里を助けたんだから。うれしいに決まってんだ……ろ」


 そう言い終わらないうちに、南くんがぐったりとわたしの肩に頭をもたせかけた。