次の日の朝起きたら、南くんはすでにいなくなっていて。

 そのことがショックすぎて、正直あの誕生日のことはあまりよく覚えていない。


 けどあの日……わたしのことを受け入れてくれて、契約までしてくれた……ってこと?


「ムカつく……ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく……」


 顔をうつむかせた莉愛ちゃんが、口の中でぶつぶつと言っている。


「……もういい。もう蒼空くんもいらない。もっともっといい人探すんだから……もう、二人ともいなくなっちゃえ‼」


 莉愛ちゃんが涙に濡れた顔をぐいっとあげるのと同時に、右手を振りおろすと、ものすごいスピードでいくつもの空気の矢がわたしたちに向かって飛んできた。


「南くん、逃げ……」

「逃げるわけねーだろ!」


 南くんが、さっきよりもぎゅっと力を込めてわたしの体を抱え込む。


 だったら、今わたしがしなくちゃいけないのは……。


「ありがとう、南くん」

「え?」


 わたしがつぶやくのと同時に、ほんの少しだけ南くんの腕の拘束が緩む。


 ——ドンッ!


 おもいっきり南くんの胸を強く押して突き飛ばした瞬間、莉愛ちゃんの空気の矢がいくつも通りすぎていった。


「朱里ーっ‼」


 南くんの絶叫が校舎裏に響く。

 南くんの方にゆるゆると顔を向けると、地面に尻もちをついたまま、南くんが大きく目を見開いている。


「みなみく……ぶじでよかっ……」


 最後まで言い終わらないうちに膝からくずおれるわたしのことを、南くんががしっと支えてくれた。