「ごめんなさい……そんなつもりじゃなかったの」

「は? 謝って済むとでも思ってんの? あんたなんか今すぐ殺してやる」


 怒り狂った莉愛ちゃんの体から、どす黒い靄が溢れ出す。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……あのさあ、人の話はちゃんと最後まで聞けって!」


 全力で走って莉愛ちゃんを追いかけてきたのか、荒い息の東条くんが校舎裏に現れた。


「これは、11年前に結んだ『契約の証』なんだよ」


 そう言いながら、東条くんが襟元をぐいっと引っ張って噛み跡を露にする。


「高校に入学して、北澤と会うずっと前のことだ。だから、今ここで朱里を責めるのは間違ってる」


 ……間違いない。わたしの噛み跡だ。

 うまく言い表せないけど、わたしにはわかる。


 けど、11年前って……どういうこと?


「……そんなこと、どうだっていい。あんたさえいなくなれば、蒼空くんはあたしのものにできるんだから!」


 莉愛ちゃんがばっと右手をかざすと、空中に大量の空気の矢が現れた。

 さっき頬をかすめて飛んでいったのは、これだったんだ。


「やめろ、北澤!」


 東条くんがわたしと莉愛ちゃんの間に飛び出すと、ぎゅっとわたしを抱きしめる。


「なにがあっても、もう絶対に離さないからな」

「みなみ……くん?」


 わたしがつぶやくと、くすりと笑う声が耳元でした。


「覚えててくれたんだ。よかった」


 わたし……南くんに嫌われたって思ってた。

 だから南くんは、どこか遠くへ行ってしまったんだって思ってた。


 けど、そうじゃなかったってこと?