シュンッ!


 今の、なに⁇


 ごみ捨てを終え、校舎裏から教室に帰る途中、右耳の横をかすめるようにして、なにかがものすごいスピードで通りすぎていき、反射的にごみ箱を抱えたままピタッと足を止めた。


 シュンッ!


 痛っ。

 今度は左側を同じようになにかがかすめて通りすぎていく。

 チクッとした痛みを感じ、頬に手をやると、わずかに血が出ていた。


「やっぱりあんただったんじゃない!」


 うしろで声がして、ばっと振り向くと、鬼の形相の莉愛ちゃんが仁王立ちしていた。


「な、なにが?」

「とぼけないで。東条くんの『契約者』に決まってるでしょ」

「そんなはずないよ。だってわたし、この前会ったばかりで……」


 東条くんを目の前にするたびに、自分でも怖くなるくらい東条くんのことが欲しくなるけど……それだけのはずなのに。


 ……待って。ひょっとして、保健室に運んでくれたあのとき?

 無意識のうちに、首筋に噛みついてしまったってことはない?


 相手の同意を得ない契約行為は、厳しく罰せられることになっているのに。

 なんてことをしちゃったんだろう!


 記憶のない過ちに、さーっと血の気が引いていく。