「でも、朱里は朱里なんでしょ?」

「うん。朱里は朱里だよ? でもね、ヴァンパイアは、人間の血を飲んだりするんだって。怖いでしょ、朱里のこと」


 自分で言ってて、また目の端っこに涙の粒が膨らんできた。


「ほんと、朱里は泣き虫だなあ。そんなことで泣かなくてもいいのに」


 くすっと笑いながらティッシュを一枚取ると、南くんはそれをぐしゃっと丸めてわたしの涙を拭ってくれた。


「だって南くん、もう朱里と仲よくしてくれないでしょ?」

「なんで? だって、朱里は朱里なんでしょ?」

「……本当に? 朱里と、これからも仲よくしてくれるの?」

「うん、仲よくする。それに——なにがあっても、朱里のことは僕が絶対に守る」


 真剣な顔で南くんがそう言ってくれて。

 だからわたしの涙はまた止まらなくなって。

「ったく、朱里はほんと泣き虫だな」ってまた笑われて。

 だからわたしは「泣いてないもん」って強がって。

 それで、最後は二人でずっと笑ってたよね。


 ——なのに。


 翌朝、南くんは、なにも言わずにお引越ししちゃったんだ。


 わたしがあんなことを言ったせい?

「朱里は朱里なんでしょ?」って言ってくれたのに。

「なにがあっても、朱里のことは僕が絶対に守る」って言ってくれたのに。

 やっぱり、あんなことを言ったせいで、嫌われちゃったんだ。


 なんでわたしは半分ヴァンパイアなの?


 なんで南くんとおんなじ人間じゃないの?