「あたし、蒼空くんの首筋に『契約の証』があるのをたまたま見ちゃったんだぁ。ねえ、念のため聞くけど、あれって朱里のじゃないよね?」
トイレから出たところで、莉愛ちゃんに無理やり拉致られ、ひと気のない特別教室の並ぶ廊下で、莉愛ちゃんと二人きり。
今までは、ふわふわしたかわいい子だなぁって思っていたのに、今、わたしの目の前にいる莉愛ちゃんは、全身に殺気のようなものを纏っている。
『契約の証』っていうのは、二人がこの契約に同意しましたよっていう証に、その人の首筋に残す最初の噛み跡のこと。
噛み跡自体はすぐに消えちゃって、人間の目には見えなくなるんだけど、ヴァンパイアにだけはいつまで経ってもそれが光ってみえるらしいんだ。
「ち、ちがうよ⁉」
両手と首をぶんぶん左右に振って、全力否定するわたし。
「だってわたし、莉愛ちゃんが『契約』してるんだろうなってずっと思ってたし」
「ふうん。なあんだ、残念。朱里を殺せば、新しくあたしが契約できると思ったのになー」
さらっと莉愛ちゃんが口にした恐ろしい言葉に、ぶるっと身震いする。
ヴァンパイア同士の殺し合いに、人間の法は適用されないらしいんだよね。
勝手に殺し合って滅びてくれってことなのかもだけど……。
もちろん、それを罰するヴァンパイアの世界の法も存在しない。
強い者がこの世を統べる。ヴァンパイアの世界は、いまだにそういう世界みたい。
弱い人を助けようっていう、人間の世界の法律とはだいぶちがうよね。